Nomen Nescioを訪ねて
TRANSIT58号 フィンランド特集。私たちlumikkaは、取材記事「北の地に生るデザイン」を担当しています。本記事には美術館や工房への訪問、建築家やデザイナーへのインタビューなど、デザインをめぐる旅の様子が綴られています。
前回のコラムから引き続き、記事に掲載しきれなかった取材の溢れ話や旅の記録をじっくりとご紹介していこうと思います。ぜひ、TRANSITの記事と合わせてご覧ください。
今回は、記事にも登場しているヘルシンキの現代的なファッションブランド Nomen Nescio / ノーメンネスキオをご紹介します。
Nomen Nescio
“Nomen Nescio”とは、ラテン語で「匿名」という意味。2012年、フィンランド出身のNiina LeskeläとTimo Leskeläにより設立されたデザインスタジオは、ミニマルでジェンダーニュートラルな服を現代社会に提案しています。
創設者でありデザイナーのNiinaとTimoは、それぞれ文化地理学と家具デザインのバックグラウンドを持ちます。自分たちふたりが着られる服をつくることからこのブランドは始まったそう。そのため、彼らの服がジェンダーニュートラルであることはある意味必然的で、現代社会に対するマーケティング戦略としての“男女共用”ではありません。
かつて百貨店の一角に佇んでいたショップも、今ではMarimekkoの隣に堂々と。アイコニックな柄が特徴的なMarimekkoとは対照的に、Nomen Nescioは無地で黒一色。良質な素材と美しいシルエットをベースとした、ミニマルなモダンファッションが特徴的です。
今回、記事の取材としてNiinaとTimoにお話を伺ったのですが、とても気さくで優しい方たちでした。「自分たちを前面に出すのがあまり好きではない」というフィンランド人らしい性格のふたり。はじめの数年は、ブランド名の通り匿名でデザインを行っていたと言います。
「自分たちの美学ばかりを追求するのではなく、経験を共有したい。」
そう言う彼らの哲学はとても民主的で、フィンランドの現代を象徴しているようです。この国が民主的である理由を、Niinaは「これまで王様も女王もいなかったから」といいます。その感覚はおそらくフィンランド人ならではのもので、比較的似ていると言われる日本人でさえも理解しにくい部分なのかもしれません。
では実際に、Nomen Nescioがどうフィンランドで受け入れられているのかと言うと…
デザインマーケットでは人だかりができるほどの人気でした。若い人たちばかりかと思いきや、ご年配の方々も少なくなく、幅広い属性の人たちに受け入れられているようでした。
もちろん言うまでもなく、この記事を書いている私もそのひとりとして。
彼らにとっての服とは、単なる商品ではなく哲学なのだと思います。
服をどうやって売るか、ではなく、服を通じてどのように「生きる」という行為を豊かにするのか、その一点に真摯に向き合っているように感じます。
Nomen Nescioは今年で創設10周年。まだ日本ではあまり知られていませんが、きっとこれからのフィンランドデザインを象徴する存在となることでしょう。
いつか一緒に仕事ができたらな、と。
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