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新しい栄養(3)食文化と腸内フローラ

将来の美容や健康は、個々人の遺伝的素因と環境的要因によって変わります。

遺伝的素因は生まれてからは変えることができませんが、環境的要因の多くは自分の意思で変えることができます。
環境的要因には、食生活、喫煙、大気や気候、細菌やウイルス、紫外線、運動、ストレス、睡眠など、身体に影響を与えうる全てのできごとと行動を含みます。
つまり、「ライフスタイルは人間の身体的・精神的健康に大きな影響を与える」ということが言えます。

日本人は外国人と異なる遺伝子を受け継ぎ、異なる環境で生きてきました。特に欧米と日本とでは、地理的環境や生活様式、生活習慣、食文化なども大きく異なり、その体質も異なります。
民族によって、消化・吸収や代謝能力、さらに、腸内細菌叢(腸内フローラ)の構成も異なります。特に、日本人は、炭水化物代謝能のある腸内常在菌が多いのが特徴です。
→新しい栄養学(2)日本人の腸内フローラ

私たちは、食生活・生活習慣を見直す上で、日本人の特性・体質*を考慮に入れる必要があります。

アジアは、土壌が肥沃で、長い間アジア人は欧州と比べて、はるかに豊かな食生活を送ってきました。アジアでは古代から農耕が広くおこなわれ、炭水化物を豊富に含む様々な穀物を十分食べることができました。
十分に精製されていない米、きび、ひえ、あわ、麦、芋、栗なども主食としていました。

保温機能付き炊飯器などが無い時代は、殆ど冷えたご飯を食べていました。冷えたご飯には、レジスタントスターチ(難消化性でん粉)といったルミナコイドが含まれています。日本人は、多様な穀物から、食物繊維をはじめとしたルミナコイドをたっぷり摂取していました。

精製されていない穀類は良く噛まなければなりません。よく噛むことで、素材が持つ繊細なうま味を感じ取りました。故に、特に日本人は味覚が繊細で、ご飯だけでも美味しく食べることができます。

また、島国である日本は、国土が細長いことから、四季折々の旬な畑・森・海の幸*(1)にも大変恵まれてきました。自然の惠を大切に、優れた醸造技術による調味料、中長期間保存可能な発酵食品、満足度を高めるうま味出汁の活用など、栄養バランスと美味しさを兼ね備えた、独自の和食文化を生み出しました。

日本の地理的、文化的環境が、日本人の特性・体質に結びついており、私たちが多種多様な腸内常在菌と上手な共生関係を築く上で重要な視点と考えられます。

近年、環境変化や食習慣の欧米化に伴う食物繊維などの難消化性食物成分(ルミナコイド)の減少が、腸内フローラのバランスの変化や多様性の喪失との関連性が示唆されています。*(2)(3)(4)

現代は昔と比べて遥かに健康寿命が伸びています。しかし、これは新生児の死亡率の低下や様々な医療技術の進歩などの影響と考えられます。

日本人の大腸がんでの死亡率は1990年代まで増加傾向にあり、その後も減少していないという事実からも、腸内環境に与える私たちの食生活・生活習慣などの影響を今一度考え直す時だと言えるでしょう。

*海の幸:世界各地周辺の海水魚の種類を比べると日本は約3,700種(日本固有種:約1,900)と突出的に高いことがわかります。インド太平洋(インド洋から西部太平洋までの海域):約3,000種、西部大西洋:約1,200種、東部太平洋:約1,000種、東部大西洋:約500種、地中海:約500種、北極:約250種、南極:約250種

*体質:からだの性質。遺伝的素因と環境的要因との相互作用によって形成される、個々人の総合的な性質です。

出典:
*(1)“The Diversity of Fishes Second Edition.” Wiley-Blackwell, May2009., 環境省・海洋生物多様性保全戦略公式サイト
*(2)「食文化と腸内細菌 -米食文化とPrevotella属-」モダンメディア66(7):21-25(2020)[わだい]211
*(3)「腸内フローラ研究からみた日本人とアジア人の健康」日本食生活学会誌29(3):137-140(2018)
*(4)“Diet-induced extinctions in the gut microbiota compound over generations” Nature 529:212-215 (2016)


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