つながる英単語ノート 語根編 §19.37 市民

ラテン語の cīvis から派生した単語について、何回かにわたって書いてきました(→こちらこちら)が、これまでに紹介した分も含めて、今回簡潔にまとめてみました。

主要な英単語のすべてを、共通の形式で整理することができないかと考えていて、そのための形式について試行錯誤しているところです。

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(1) ラテン語 cīvi-(単数主格 cīvis)〈名〉㊚㊛ 市民

(1.1) ラテン語 cīvi‧tāt-(単数主格 cīvitās)〈名〉㊛ 市民権、都市 < (1) cīvi-  + 接尾辞 -tāt-
 → (アングロ゠)フランス語 ci‧té 〈名〉㊛ 都市
  → 英語 city /ˈsɪt̬i/【194】〈名〉都市
(1.1.1) アングロ゠フランス語 ci‧te·sain 〈名〉㊚ 市民 < (1.1) cité + 接尾辞 -ain
 → 英語 citizen /ˈsɪt̬ɪzᵊn/【1214】〈名〉市民
(1.1.1.1) 英語 citizen‧ship /ˈsɪt̬ɪzᵊnʃɪp/【5978】〈名〉市民権 < (1.1.1) citizen + 接尾辞 -ship

(1.2) ラテン語 cīv·īli-(男性単数主格 cīvīlis)〈形〉市民の < (1) cīvi- + 接尾辞 -(ī)li-
 → フランス語 civ·il〈形〉市民の
 → 英語 civ·il /ˈsɪvᵊl/【2558】〈形〉市民の
(1.2.1) フランス語 civ·il·iser 〈動〉〜を文明化する < (1.2) civil + 接尾辞 -iser
 → 英語 civ·ilize /ˈsɪvəlaɪz/〈動〉〜を文明化する
(1.2.1.1) 英語 civ·ilization /ˌsɪvᵊləˈzeɪʃᵊn/【3556】〈名〉文明 < (1.2.1) civilize + 接尾辞 -ation
(1.2.2) 英語 civ·ilian /sɪˈvɪljən/【5812】〈名〉民間人 〈形〉民間の < (1.2) civil + 接尾辞 -ian

(1.3) ラテン語 cīv·ico/ā- (男性単数主格 cīvicus)〈形〉市民の < (1) cīvi- + 接尾辞 -(i)co/ā-
 → 英語 civ·ic /ˈsɪvɪk/【4700】〈形〉市民の

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今回目指しているのは、Carl Darling Buck の A Dictionary of Selected Synonyms in the Principal Indo-European Languages (1949) に基づいて、JACET8000 の英単語を語根ごとに網羅することです。[] 内の数字が JACET8000 のランクを表し、数が小さいほど基本的な単語になります。

語根という言葉を、ここではやや雑に使っています。それ以上分割できない単位、というのを突き詰めるなら、例えば今回の cīvis は、Michiel de Vaan によるとインド・ヨーロッパ祖語の *ḱey-wo- に遡ることができ、接尾辞 *-wo- を取った *ḱey- が語根ということになります。この *ḱey- が「横たわる」という意味の動詞なのか、「これ、ここ」を意味する代名詞なのか、という議論があるようですが、ここまでいくともはや「市民」から遠く離れてしまいます。ですからここではラテン語の cīvis までで踏みとどまり、これを仮に語根と呼んでいます。

今回大胆な試みとして、ラテン語(と古代ギリシャ語とゲルマン祖語)は、一般的な辞書形ではなく、また動詞に関しては不定法現在形ですらなく、語幹(動詞に関しては動詞幹)を第一に挙げることにしました。ラテン語の動詞幹についてはこちらの記事で詳しく書きましたし、名詞や形容詞も、辞書形に使われる単数主格形に限って、ほかの変化形にない音変化を起こしていることがよくあります。ロマンス諸語の語形が一般にラテン語の主格ではなく斜格に基づいていることをふまえても、この種の記述は語幹を中心に行うのが適当に思われます。

今回もう一つの試みとして、形態素のようなものを「·」で区切って表示しています。「のようなもの」と微妙な言い方をしているのは、またもや「それ以上分割できない」という話になります。city を ci‧ty と分割したり、civic を civ·ic と分割したりするのは、通常の英語話者にとってはナンセンスでしょう。しかし、loyalty の -ty や atomic の -ic は英語の接尾辞として立派に認知されているから、という言い訳をして、こういう区切り方をしています。こうした判断は主観を交えざるを得ず、今回の記事の中でおそらく学問的に一番あやしい部分にはなってしまいますが、そのぶん派生関係が視覚的に見やすくなっているのではないかと思います。(なお、辞書によく載っている音節の区切りとは似て非なるものなのでご注意ください。)

それぞれの接辞は、「接頭辞編」「接尾辞編」として、一つずつ別の記事にする予定です。いつかそれが完成したら、同じ接辞を使った主要な英単語を一望できるようになるはずです。

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ここにドイツ語やフランス語やロシア語やリトアニア語やヒンディー語などを一緒に並べるのが夢なのですが、欲張るとあらゆる用途にとって見にくく使いにくいものになってしまいそうなので、ひとまずは英語に集中することにします。

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