つながる英単語ノート 3 civic

前回紹介したラテン語の cīvis から派生した単語のうち、今回は英語の civic [4700] のもとになった cīvicus を取り上げます。cīvicus は、cīvis（「市民」）の語幹 cīvi- に -cus という接尾辞がついてできた単語です。

この -cus という接尾辞は、名詞などから形容詞を作る印欧祖語の接尾辞 *-ko- に遡ることができます。この接尾辞 *-ko- は、ラテン語の -cus（語幹 -ko/kā-）だけでなく、ゲルマン祖語の *-gaz（語幹 *-ga-）、ギリシャ語の -κός -kós（語幹 -κο/κᾱ- -ko/kā-）を経由して、それぞれ大量に英語に入ってきています。一旦脱線してこれらの話をしましょう。

ゲルマン祖語の *-gaz は、英語の bloody, worthy, mighty などの -y の祖先です。英語だけで見ると、名詞 blood＋接尾辞 -y のように分析できますが、これらは英語の中で作られた単語ではありません。ドイツ語の blutig、オランダ語の blodig、スウェーデン語の blodig などよく似た単語があり、これらには印欧祖語の *-ko- の面影が残っています。これらの g の前の i は、*-gaz の前の名詞語幹の母音が変化して i になったものです。英語では古英語の -iġ（bloody は古英語で blōdiġ といいました）が弱まって -y になり、英語の中で noisy（17世紀）、funny（18世紀）、sexy（19世紀）などの新しい派生語にも使われました。

ギリシャ語の -κός -kós がついた単語の例としては、名詞 φύσις phúsis（語幹 φυσι- phusi-、「自然」）から派生した形容詞 φυσικός phusikós があります（英語の physics（「物理学」）、physical（「物質の、肉体の」）はここから来ています）。このような -ι-κός -i-kós で終わる単語がある影響で、i のついた形で接尾辞として捉えられるようになり、-ικός -ikós が新しい接尾辞として使われるようになりました。その例として、名詞 δρᾶμα drâma（語幹 δρᾱματ- drāmat-、「劇」）から派生した形容詞 δραματικός dramatikós（「劇的な」 > 英 dramatic）があります。

ラテン語の -cus も、同様にもともと印欧祖語から引き継いだものですが、ギリシャ語と全く同じ事情で（またギリシャ語からの影響もあって）、i のついた -icus という形の方が主流になっています。数詞 ūnus（語幹 ūno-、「1」）から派生した形容詞 ūnicus（> 英 unique）などの例があります。

ギリシャ語の -ικός -ikós とラテン語の -icus が英語に入って、英語の接尾辞 -ic として新しい派生語を作るのに使われています。atomic（17世紀）、Islamic（18世紀）、basic（19世紀）などがその例です。

ようやくここで cīvicus に戻ります。はじめに cīvis の語幹 cīvi- に接尾辞 -cus がついてできた単語と書きましたが、cīvi- に接尾辞 -icus がついた、と見ることもでき、そういう説明もよく見られます（接尾辞がつくことで語幹の最後の母音がなくなるのはよくあることです）。名詞 cīvis（「市民」）から派生した形容詞なので、「市民の」という意味になります。これが英語の形容詞 civic になりました。

今回はここまでにします。次回はラテン語の cīvis から派生したもう1つの形容詞 cīvīlis（> 英 civil）と、それからさらに派生したいくつかの単語を紹介します。

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今はためしにいくつか語源に関する記事を書いてみていますが、主要な英単語（ゆくゆくは英語以外も）を意味のカテゴリーで分類してまとめることができないか考えています。

Carl Darling Buck という言語学者の A Dictionary of Selected Synonyms in the Principal Indo-European Languages という本がその手がかりになりそうです。それに従うなら、今回のは 19.37 Citizen の項に収まることになり、初回のは 19.15 City, Town の項に収まることになります。