つながる英単語ノート 2 city, citizen, citizenship

前回、ラテン語の urbs(「都市」)という単語が英語に入らなかったのは city という別の単語があったからだろう、と書きました。そこで今回はこの city に関連する単語を紹介します。(ただし結構数があるので2回に分けます。)

はじめにラテン語の cīvis(語幹 cīvi-、「市民」)という単語がありました。この単語自体もまた、そのまま英語には入らず、英語で「市民」は後で出てくる citizen が使われています。

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city [194](「都市」)のもとになったのは、この語幹 cīvi- に、接尾辞 -tās(語幹 -tāt-)のついた、cīvitās(語幹 cīvitāt-)というラテン語の名詞です。

接尾辞 -tās(語幹 -tāt-)は、主に形容詞について、性質や状態を表す名詞を作ります。フランス語で -tet > -té と形が変わり、英語では -ty という形になっています。英語の形容詞 secure(「安全な」)・diverse(「多様な」)に対応する名詞 security(「安全」)・diversity(「多様性」)がその例です。もとになったラテン語はそれぞれ、形容詞 sēcūrus(語幹 sēcūro-/sēcūrā-)・dīversus(語幹 dīverso-/dīversā-)から派生した名詞 sēcūritās(語幹 sēcūritāt-)・dīversitās(語幹 dīversitāt-)です。(-tās の前では、幹母音 o/ā が i に変わるという法則があります。)

cīvitās は、形容詞ではなく、cīvis(「市民」)という名詞から派生しているという点でちょっと変わっていますが、これが市民の集合である「都市」を意味するのはなんとなく理解できるかと思います。上の例に倣えば英語では civity になりそうなものですが、-ivi- /iwi/ が -i- に縮まって、フランス語の cité、英語の city になりました。

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さて、このフランス語の cité(「都市」)に、前回 urban でも出てきたラテン語の -ānus に由来するフランス語の接尾辞 -ain がついて、citeain(「市民」)という古フランス語の単語ができました(ただしこの頃のフランス語は正書法が定まっていないのでほかにも様々な綴りがあります)。これが英語に入ってくる前にどういうわけか /z/ の音が入り込んで、citizen [1214] になりました。一説には、今では比喩などでしか使われなくなった denizen(「居住者」)という単語の影響を受けているともいいます。

なお、citizen は、ある city の人という意味にとどまらず、「国民」という意味でもよく使われます。

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これがさらに英語の中で派生して、citizenship [5978](市民権)という単語が生まれました。

英語の -ship という接尾辞は、名詞について性質などを表す名詞を作ります。例えば member(「会員」)から派生した membership は会員としての地位や資格を表し、leader(「指導者」)から派生した leadership は指導者としての地位や素質を表します。-ship は日本語でも造語力を発揮して、「スキンシップ」という和製英語も生まれました。

citizen(「市民、国民」)から派生した citizenship は、市民・国民としての地位や権利や義務を表し、しばしば nationality と同じ「国籍」という意味でも使われます。

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次回は cīvis から派生した残りの単語を取り上げます。

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