見出し画像

小説×ファッション#1 夏目漱石-夢十夜

新型コロナウイルスの蔓延により街に出られる機会が減り、好きなファッションを身に纏って街を闊歩するという楽しみがなくなった昨今。家の中でファッションを楽しむ方法を模索する中、小説の世界観や登場人物の醸し出す雰囲気を自らの感性で汲み取り、それに合う服装をイメージし、身に纏うことで小説の世界に没入体験をするのはいかがであろうと考えた。虚構の世界と現実世界が融合する、小説×ファッションという新ジャンル。

記念すべき第一回で扱う作品は私の愛読書、夏目漱石著『夢十夜』にしたい。中でも今回は「第一夜」をテーマとする。

第一夜 

この『夢十夜』は夢に現れた不思議な出来事を幻想的に描き出した、第一夜から第十夜までの合計十篇からなる短編物語集である。その中でも第一夜は信じられないほど幻想的で美しい。だがその世界はどこか謎に包まれており、読む者にふわふわとした浮遊感のような何かを感じさせる。中でも印象的なのが「女」の描写だ。「もう死にます」と言って少しずつ生気を失っていくのだが、唇は血色に満ちており、瞳はその言葉からは想像もできないほど潤い、透き通っている。その不確かさとは相反して、「百年、私の墓の傍に坐って待っていてください。きっと逢いに行きますから」と言って死への恐怖、現世への執着を露わにするように、どこか人間臭い一面も散らつかせる。この相反する二つの描写に私たちは混乱させられ、だが確実に強くこの世界観に強く引き込まれるのだ。この世界観を一言で表すとすれば「儚さ」であろう。

いくら美しくても死ぬ時には死んでしまう。死ぬことを悟っていてもやはり縋ってしまう部分がある。そういった、生を全うする人間の複雑な心境、生きることの儚さを上手く表現した作品なのである。

この世界観を何かに結びつけたいと考えた時、私の頭には既に「ヨウジヤマモト」によって提案された世界観以外無かった。山本耀司氏はデビィー当時から一貫して儚くも美しい世界観を洋服を通して表現し、多くの人間を魅了してきた。中でも私が最もマッチしていると感じるのは2021年ssシーズンのものである。

ヨウジヤマモト2021ss

画像1

このシーズンはとりわけ日本における伝統的な観念、「もののあはれ」の無常感が強烈に表現されたと言えるだろう。主役の洋服はもちろん、このショーが行われたパリ庁庄内のホールはアンニュイなアコースティックギターの音色に支配され、照明はいつも通り薄暗く、退廃的なのだがどこか神秘的で儚い雰囲気に満ちていた。ドレスのカッティングは彫刻を彷彿させるほどの力強い鋭さであり、その一方で全体のシルエットとしては美しい花びらのような優しい表情を持つ。シルエットのみならず大胆なカッティングにより大胆に風を纏うその布の表情も風に吹かれ揺れる花を連想させた。

風に吹かれ、雨に打たれ、それでも美しい姿を保つ。それほど力強く美しくともその美しさはそう遠くない未来には消え失せてしまう。

その様な花の有り様はいつも私の心を撃ち、世の儚さを感じさせる。そのような優しくも、力強いといった二面性をこのドレスは持ち、同時に花の持つ「儚さ」を私たちに連想させる。また、そのことは第一夜にして登場したあの「女」を思い出させるのだ。

皆さんも一度ヨウジヤマモトの世界観を身に纏いながら夢十夜、第一夜の世界観を存分に味わってみてはどうであろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?