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薬師如来と阿弥陀如来と浄瑠璃寺


薬師如来と阿弥陀如来

薬師如来は東方浄土(過去・苦悩)を司り、阿弥陀如来は西方浄土(未来・理想)を司る

薬師如来と阿弥陀如来についてお話します。

薬師如来は東方の浄土を司る如来さんです。
東方は朝日が昇る方向で、朝の向こう、つまり昨日、過去を表しています。過去というのは苦悩の象徴であり、そのため、お薬師さんは苦悩を取り除いてくれる薬壺を左手に持っています。

阿弥陀如来は、西方を司る如来さんです。
西方は夕陽が沈む方向で、夕方の向こう、つまり明日、未来を表しています。未来というのは願望も込めて理想の象徴です。これには、あの世という意味もあります。そこへ向かって導いてくれる存在が、阿弥陀如来。

奈良と京都の境の木津・加茂にある浄瑠璃寺には阿弥陀如来と薬師如来がいらっしゃいます。

浄瑠璃寺の三重塔(薬師如来)

浄瑠璃というのは、薬師如来が司る東方浄土のことを指します。東方の浄土を、東方瑠璃浄土と言います。瑠璃はサファイアのことで、東方瑠璃浄土では大地はサファイアでできていると言われています。
浄土というのは、先日、知恩院のお坊さんがおっしゃっていたのですが、英語で「ピュアランド」と訳すらしいです。煩悩や穢れのない清らかな場所、という意味です。
浄瑠璃寺には境内の東に三重塔があり、そちらには薬師如来が鎮座しています。

浄瑠璃寺三重塔。薬師如来が鎮座している(通常は秘仏)

浄瑠璃寺の九体阿弥陀堂

一方、中央の阿字池を挟んで、境内の西側には、九体阿弥陀堂があり、お堂の中には9体の阿弥陀如来が鎮座しています。なぜ9体なのかというと、仏教では生前におこなった善行を9段階に分けており、迎えにいく阿弥陀如来が異なるためです。

浄瑠璃寺九体阿弥陀堂
ずらっと9体の阿弥陀如来が鎮座している

平安時代半ばごろ、仏の教えが正しく伝わらない時代に至るという末法思想を背景に、この世での幸せよりも、死後、極楽浄土へ行って幸せを求める信仰が広まりました。極楽浄土の主である阿弥陀如来への信仰が高まって彫像や堂宇の造立が盛んになり、その事例のひとつとして、9体の阿弥陀如来像をつくって祀るということが盛んにおこなわれました。

阿弥陀如来に関する『観無量寿経』という経典によると、生前のおこないや信心深さに応じて、極楽往生の仕方には9段階あると説かれています。
一番上の段階では、多くの菩薩や飛天を引き連れて極楽浄土からやってきた阿弥陀如来にすぐに会うことができます。一番下の段階では、亡くなった人の魂を載せる蓮華の台だけがやって来て、その後、時間をかけて往生します。
ただし、重要なのは、どの段階であっても最終的には極楽往生できるという点です。

この9段階の極楽往生になぞらえてつくられた9体の阿弥陀如来像を九体阿弥陀といい、9体を横一列に安置する横長の建物、つまり九体阿弥陀堂や九体堂と呼ばれる専用の堂宇も建てられました。
浄瑠璃寺には、そんな九体阿弥陀堂が現存し、なかには9体の阿弥陀如来が鎮座しています。

浄瑠璃寺では、境内そのものに、ひとつの世界観が表現されています。

此岸から彼岸へと至る世界観が表現された浄瑠璃寺

つまり、山門をくぐり、
境内の東へ進んでいくと、薬師如来が鎮座する三重塔があります。薬師如来は過去世から送り出してくれる仏であり、過去の因縁や苦悩を超えて進むための薬を与えてくれます。
そんな、私たちを送り出してくれる仏が、太陽の昇る東に安置されています。

東=過去・苦悩、西=未来・理想のあいだに浄土式庭園があり、東の此岸、西は彼岸です。
東の薬師に遺送されて出発し、現世で正しい生きかたを教えてくれた釈迦の教えにしたがい、煩悩の川を越えて彼岸にある未来を目指して精進する。そうすれば、やがて阿弥陀さんに迎えられて西方極楽浄土に至ることができるというストーリーが、庭を含めた寺域全体で表現されているわけです。

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