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#437 不動産を売却して分ける:連棟式建物にご注意

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:不動産を売却して分ける 】

今日は,「不動産を売却して分ける」という,ざっくりとしたトピックについてお話したいと思います。

弁護士の仕事をしていると,「不動産を売却して分ける」という場面に,かなりの頻度で遭遇します。

そもそも,弁護士の仕事では,何かしらの財産を「分けなきゃいけない」場面が多いです。

相続の場面であれば,亡くなった方の財産をどう「分けるか」が問題となりますから,まさに,財産を「分けなきゃいけない」場面です。

離婚に伴って財産分与をする際も,結婚後に夫婦で築いた財産を,夫婦で半分こにするわけですが,これも,財産を「分けなきゃいけない」場面です。

少し脱線ですが,この「半分こ」という考え方(というか,「思想」)は,人間の本能的から湧き出しているので,かなり激しく争われることがあります。

「平等」という観念は,チンパンジーにも観察されるので,人間のご先祖様とチンパンジーのご先祖様が枝分かれする前から,「平等」という観念(思想)は本能に根付いているようです。

この歴史を踏まえると,「平等」という思想は,めちゃくちゃ根深く本能にインプットされていることがわかると思います。

話を元に戻します。

「分けなきゃいけない」場面に出くわしたとしても,それが現金なら話は簡単です。

現金を1円単位でキレイに分けてしまえばいいだけです。100万円を半分こするなら,50万円ずつに分ければいいです。100万円という現金があるのなら,その現金を,50万円ずつ持っていけばいい。

預金として100万円が存在する場合も,片方が100万円の預金を全部取得して,その中から50万円を分け与えればいいです。振り込むなり,現金で渡すなりすればいい。

このように,現金や預金の場合,「分ける」ことは簡単です。「分ける」ことそれ自体が問題になる場面は,まずありません。

でも,不動産となると,そうはいきません。分けることそれ自体に問題が生じることがあります。

まあ,「不動産」に限らず,現金や預金以外の財産は,分けること自体に問題が生じやすいです。

例えば,上場株式であれば,株価も市場価格がありますし,売却して分けることもできるので,そんなに問題にならないでしょうが,上場されていない株式となると,話は変わってきます。

自動車なんかも,自動車それ自体を分けるわけにはいきませんから,分け方に問題が生じます。

ただ,今日は,不動産にフォーカスを当てて話を進めます。

不動産も,分け方に問題が生じる財産の代表例です。

不動産には,土地と建物が含まれますが,建物を現物で分けるわけにはいきません。建物を物理的に切り取って分けても仕方ないですしね(笑)。

まあ,物理的な切り取りが絶対に不可能なわけではありませんが,切り取られた建物の一部を貰ったとしても,それをどこに置けばいいのか悩んでしまいますよね・・・。

これに対し,土地は,建物に比べれば,切り取りやすいです。

土地は「分筆」といって,1つの土地を2つ以上に区分けすることができます。だから,土地は,「分筆」という手間はかかりますが,現物で分けることもできます。

ただ,分筆すると,当たり前ですが,1つひとつの土地の面積は,元の土地より狭くなります。

面積が狭くなると,その分,その土地の利用が制約されます。宅地であれば,土地が広ければ広いほど,建てられる建物も幅広くなりますが,これはつまり,狭ければ狭いほど,建てられる建物は限られてくることを意味します。

農地の場合も,広ければ広いほど,効率よく農業を営めます。狭ければ狭いほど,農業の効率は悪くなります。

こんな感じで,土地が狭くなると,土地の利用範囲が狭まるので,土地の価値が下がってしまうことが多いです。

逆に,土地が狭くなったおかげで,1筆あたりの土地の値段が下がり,その結果,土地の流通性が高まって,逆に価値が上がるパターンもありますが,まあ,それはケースバイケースです。

少なくとも,土地を分筆することによって,土地の価値が下がるケースは間違いなくあります。

だから,土地は,建物に比べて,現物で分けやすいとはいえ,現物で分けると不利益になってしまうケースもあるわけです。

そもそも,「土地や建物なんかもらっても仕方ない」という人も多いです(笑)。

今は,空き家問題が深刻化していることからわかるように,日本中に,価値ゼロの土地や建物が氾濫しています。

本当に,たくさんあります。そんな価値ゼロの土地や建物を貰っても仕方ないわけです。

土地や建物を貰ってしまうと,管理責任も発生してしまいますからね(笑)。

土地や建物の価値がゼロじゃなくても,単純に,土地<お金,という人も多いです。

そういう人にとっては,どれだけ土地に価値があっても,お金に変えられなきゃ意味ありません。

そんなこんなで,土地をお金に換えて,つまり,売却して分けることがあります。

土地を売却してお金に換えてしまえば,先ほど「現金は分けやすい」と説明したように,簡単に分けられるようになります。

ただ,「売却」といっても,売るためには「買ってくれる人」が必要です。

当たり前ですが(笑)

その土地なり建物なりを買ってくれる人が現れ,その人が最後にお金を払ってくれて初めて,不動産は「お金」に変わります。

不動産の買い手は,ふつうは,不動産仲介業者さんを通じて探します。

「不動産仲介業者」は,一般的には「不動産屋」とも呼ばれています。

こういった仲介業者が,不動産の情報を「流通」に載せると,情報が公開され,買い手が買付証明を仲介業者まで送ってきます。

買い手が複数手を上げたら,最も条件の良い買い手に購入してもらいます。

その買い手と売買契約を結び,その売買契約に基づいて,買い手に名義を変更するのと引き換えに,お金を払ってもらいます。

名義変更と引き換えにお金を払ってもらうことを,「決済」と一般的に呼びます。

売買契約時点では,まだ不動産は売れていません。買い手は,「手付」といって,売買代金の一部(1割~2割)を先に払いますが,この時点では,名義も変更されていません。

「手付」は,一般的には「頭金」と呼ばれることが多いですが,手付を払っただけの状態であれば,手付を放棄することで売買契約を解約できるので,まだまだ売れるかどうかわかりません。

ふつうは,手付を放棄するくらいなら購入したほうがマシなので,あまり手付を放棄することはありませんが,手付を放棄して解約できるのは間違いないので,決済まで安心はできません。

あと,買い手が,購入資金を住宅ローンで工面する場合,そもそも住宅ローンの審査が通らなかったら,手付放棄どころか,手付を返金して売買契約が解約されます。

ローン審査が通ることを前提に売買契約を締結したわけですから,そもそもローン審査が通らないなら,売買契約を結ぶ意味がないので,手付も返金しなければなりません。不動産売買契約書のひな形には,このことが明記されていることが多いです。

さて,そんなこんなで,最後の「決済」まで進んだら,無事に不動産がお金に変わります。

この「不動産売却」は,当然ながら,不動産を売ろうとしている売主がいるわけですが,その売主が1人じゃなくて,モメている場合も多いです。

例えば,遺産分割の場面で,遺産の不動産を売却して分ける場合,売主になるのは,遺産分割でモメている複数の相続人たちです。

死んだ人名義のままだと不動産は売れないので,生きている相続人たちの名義にいったん変更して売却することになります。

ただ,相続人たちは,お互いにケンカしているわけですから,買い手を見つけようにも,紛争の相手方が見つけてきた買い手を信用しないわけです。

ある相続人が買い手を見つけてきたとしても,他の相続人が「もっと高く売れるはずだ!」と言って,その買い手に購入してもらうのを承諾しない危険性があります。

それを繰り返していたら,いつまで経っても不動産は売れません。

そこで,不動産の買い手を見つける場合,それに先立って,モメている売主同士で合意しておくんです。

・期日を設定して,その期日までにお互いで買い手を探して,買付証明を取り付けておく。

・その買付証明を,同時に開示して,その中から最高値で買ってくれる人に売る。

こういう合意を事前に結んでおけば,「もっと高く売れるはずだ!」という紛争を未然に防ぐことができます。

これは,売主同士でモメている不動産を売却する際に,よく用いる手法です。

で,今日はここで終わりません。

売ろうとしても売れない不動産があることを,最後にお伝えしておきます。

売ろうとしても売れない不動産は,先ほど書いたように,価値のない不動産が代表例ですが,僕が直面したのは,連棟式の建物が存在する土地です。

僕が直面した「連棟式の建物」は,2つの土地にまたがって存在していました。

建物自体は1つの建物なんですが,その所有者が,土地の境界に沿って違うのです。

1つの建物を,2つの土地の地主さんが,境界に沿って所有しあっていたのです。

そして,僕が扱った事案では,その2人の地主さんのうち,1人が亡くなり,土地を売却して分けようとしたところ,連棟式の建物がネックになって,買い手がつきませんでした。

もう依頼を受けて4年以上が経過しますが,まだまだ売れません。

土地を購入する場合,買主としては,土地上の建物はジャマです。その建物を壊して,新しく建物を建てるとか,そういった利用をしたいからこそ,土地を買うわけですから。

建物ごとほしい人もいますが,僕の事案では,建物も古く価値がないので,建物ごと購入してくれる見込みは薄いです。

しかし,↑に書いた連棟式の建物が存在すると,建物全体を壊すわけにいかないのです。

だって,隣地の地主さんが所有している部分があるからです。境界の外側は,隣地の地主さんの所有物なんです。

だから,建物全体を壊せないのです。壊せるのは,こちら側の所有物部分のみです。

この「連棟式の建物」があることを踏まえ,隣地も一緒に売却することにしました。

ただ,隣地の名義人は既に亡くなっており,その方の相続人も,遺産分割でモメているようで,土地の名義も亡くなった隣地住人のままです。

だから,隣地を一緒に売却しようにも,亡くなった人から名義が変わらないせいで売却できないのです。

これは,本当に困りました。

こちらは,隣地住人の遺産分割を早く進めるよう,法的に請求できるわけではないので,遺産分割を待つしかありません。催促することはできますが,催促したからといって,それに応じるかどうかは,隣地住人の相続人次第です。

連棟式の建物さえなければ,「隣地も一緒に売却する」ということは考えなくてもよかったのですが,仕方ありません。

隣地も一緒に売却したほうが,連棟式の建物全体を取り壊すことができるようになりますから,間違いなく,購入希望者が出やすくなります。

ただ,そのためには,隣地の遺産分割が順調に進み,土地の名義が生きている相続人に変更されることが必要で,それは,いつになるかわかりません。

遺産分割に時効はないので,「いつまでも遺産分割しないでおく」こともできます。

遺産分割をしないでおくことが,何かしらの犯罪に該当するわけではありません。死んだ人名義のままにしておくと,後々面倒ですが,とはいえ,死んだ人名義から変更しなくてもいいのです。法的には。

まとめに入りますが,

「不動産を売却して分ける」は,不動産がお金に変わることで,めちゃくちゃ「分けやすく」なりますが,たまに,「連棟式の建物」など,一筋縄ではいかない場面にも出くわします。

「不動産を売却して分ける」は,それなりにノウハウが必要だと思いますので,気軽に弁護士に相談されてみてください。

それではまた明日!

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