読書感想文:最後の秘境 東京藝大
二宮敦人さんの「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常的」を読んだ。
美大には、なんとなくずっと憧れがあって、
出来ることなら一度通ってみたいという、
願望もあったので、学生さんたちがどんな風に毎日を送っているのか、すごく興味があった。
東京藝大の平成27年度の志願倍率は、17・9倍だったと言う。同年の東大の理科三類が4・8倍だったらしいので、恐ろしい倍率だ。
3浪は当たり前だと言う。
東京藝大には、音校と美校があって、学生たちは
音校では音楽を美校では美術を学んでいる。
一括りに東京藝大と言っても、音校と美校ではその性格が大きく異なるし、音校だけでも様々な学部があり、美校だけでも沢山の学部がある。
音校の生徒は、時間厳守、身なりも美しく整え、
舞台で履き慣れておくためハイヒールで登校するのに対し、美校の方は教授まで遅刻してくるくらい時間には緩く、身なりも頓着しない人が多いらしい。
音校の生徒さんは、演奏する自分も含めてのパフォーマンスなのに対し、美校の生徒さんは作品が主体なので、自分より作品という感じのようだ。
作者の奥さんは、当時、東京藝大の学生さんだったらしく、奥さんの描写の中には、なんでも自分で作ってしまう様子が描かれている。
机もスプーンも箸も何でも作ってしまう。
作者の奥さんだけでなく、美校の生徒さんたちは皆何でも自分の手で作りだしてしまうようだ。
作品を作るための道具でさえも。
また、美校の生徒さんの中には、ずいぶん個性的な人が沢山いて、
工芸科漆芸専攻の生徒さんで、普段は漆に魅せられて、漆の作品を作っているのに、その合間に、ものすごい精度の絡繰り人形を作ってしまう天才的な人がいたり、
アスファルトの上にアスファルトで車を作っちゃう生徒さんがいたり。(しかもアスファルトで作ったタイヤがちゃんと動く)
金属で作品を作る「鍛金」「彫金」「鋳金」のことについても詳しく書かれていて、勉強になった。
藝大ってすごいなあ、と思った。
音校の人たちも個性的で、
口笛の世界大会優勝者がいたり、
街行く人の悩みを聞いて、その悩みに合わせて「つけぼくろ」をお客さんの顔に貼り付けて「ほくろさんぽ」と名付ける人がいたり
ガムテープを小さく丸めたもので、太鼓の音を微調整する人がいたり、
小さな頃から1つの楽器を極めている人は、体が楽器に合わせて成長しているため、骨格が歪んでしまったり。
藝大の学園祭も、特殊なお神輿が出てきたり、不思議な儀式が行われたり、ミスコンもびっくりするようなものだったり、面白かった。
ものすごい倍率を潜り抜けて入学した生徒たちだけれど、就職する人は少数派で、アーティストとしてやっていける人も一つまみだという。
半分くらいの人たちは、行方不明だという。
なかなか独特の世界だ。
ここで、生徒さんの言葉の中で私が心に残ったものを引用したい。
音校の指揮科の生徒さんの言葉だ。
指揮者って、正直何をしているのか良く分からなかったのだけれども、オーケストラの全てのパートを覚え、曲の背景を知るため、曲が作られた当時の社会や、作曲家がどんな人なのか、作曲家の生涯のどんな時期に書かれたのか、どんな気持ちで書かれた曲なのか等、沢山論文を読まなくてはならないそう。
沢山勉強も必要で、かつ人間力も必要だなんて、
ドラマ等でもよく見る指揮者だけど、すごく大変なポジションなんだな、と思った。
また、作品に対する思いを語った音楽環境創造科の生徒さんの言葉も素敵だった。
程度の差はあると思うのだけれど、私はnoteに投稿した記事にも似たような感覚を覚えることがあって、多分、小説家や作家さん等、自分を表現する仕事をしている人には感じたことのある感覚なんじゃないかな、と思った。
最期に、大学院美術研究科先端芸術表現専攻の方の言葉を載せたい。
作成された作品は、どんなに時間をかけたものでも、どんな大きなものでも、最後は分別して捨ててしまうらしい。
そんな状況をこんな風に言っている。
うーん、アートって奥が深い。
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