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クライアントからの挑戦状 最終回

憂鬱なるセッションが始まった


以前より痩せて どうも面影というか残像が違う


何やら思いつめたような表情に見える


そういう感情は一切封じ込んで 普通に入ってゆく



「専門医から不安神経症との御診断だそうですが、具体的にはどのような症状ですか?」


まぁ、ありきたりの切り口だと思う



「夢を見てしまうんです」

「はぁ?誰でも見ますよね?」


「それが その 予知夢というか 現実になっちゃうんです

この時点でもう 通常のカウンセリングを逸脱している


もう、止めましょう!」と言い出したいのをぐっと抑えて 冷静になって聴いた


「夢が現実になるとして それがあなたの不安神経症と何か関係があるのですか?」と敢えて突っぱねた

「全て自分自身のことなら 構わないんです」


「友人や家族などの夢だと やはり 自分には重圧です」



この時点で こちらの心も脳も全く混乱している



心理学や精神医学の知識は全く役に立たない



個人対個人の 人格の闘いになってくる



「夢だって 色々あるでしょう 良い夢だってある 時には悪い夢だってあるかもしれない でもだからと言って あなたがそれらにかかわるとか直接手を下す訳ではありませんよね であれば あなたに責任など無いはずでしょう?


「それは確かに そうなんですけど やはり 事前にお知らせすべきではないか?と思ったり 余計なお世話だと伝えないまま その通りに悪いことが起きたりすると 自分の責任ではないか?と思ってしまうんです」




さぁ ここで随分と考えた



所謂 超能力者と面談していると覚悟するなら それなりに



そうではなく



あくまで カウンセラーとして面談するなら


きちんと理論立てて 会話を続けなければならない



ただし 内容が内容だけに 通常の会話では 通用する訳も無し



とりあえず時間稼ぎに 処方されている薬物を全て聴きだした



入眠剤ではなく 眠りを深くする作用の薬物が処方されている他には 特に変わった薬物はない



とにかく この1セッションで完了させたかった



これ以上は 付き合いきれない



カウンセラーとしては 禁じ手ではあるものの 決断した



こちらの土俵に引きずり込む それしかセッションは継続できない



神や仏や超能力者のカウンセリングなど 出来るはずもない


30秒だけ 次の一手を読んだ 後は出たとこ勝負だ



こういう場合の次の一手は勝負を決める


盤面を広く見渡し


全く相手の読みに無い 素っ頓狂な一手を指す


そして 何食わぬ顔で サッと横を向く


師匠の米長邦雄先生の泥沼流の真骨頂である



不遜・・・ですね


「はぁ? ふ・そ・ん ですか?」


はい、不遜です


「あのぉ 私の何が 不遜なのでしょうか?」


「あなたは神ですか?仏ですか? それとも超能力者ですか?」


もしそうなら、世界中の紛争を止めて戦争孤児を無くしてくださいよ


天災を全て事前に防いでくださいよ。


少なくともこの国から虐待を無くし、障がい児が一人も生まれない国にしてくださいよ。



出来るんでしょう?


それは・・・出来ません


じゃぁ、なぜ悩むのですか? そんな力は持ち合わせていないのでしょう?


たまたま 夢で見たことが正夢になったとして あなたに責任が取れるのですか?



取れません


なのに あなたは


他人の人生で起こるイベント全てが自分の責任であるかの如く仰る


大した超能力ですね


クソの役にも立たない程度の



捨ててしまえば どうですか?


どうせ 大して役に立たないのですから


それが無理なら せめて 自分は万能ではないので 知らない!


言い聞かせることくらいは出来ますよね


・・・はい


これ以上あなたのカウンセリングを継続する能力は私にはありません


暴言を吐いたことは ご寛恕ください



今のお言葉 とても今までの先生のお声とは思えません


先生こそ この世に必要な方なんです


お札が剥がれ落ちたのも 骨折したのも


先生の後ろにいらっしゃる 鬼のような形相の仏様の御加護だと思います


はぁ?私如きがそんな仏様に守られているのですか?


死にそうに貧乏で倒産しかけてる会社のしがない自営業者で


障がいを持った子供達の手助けをするNPO法人の理事長くらいですけど


右手に三又に分かれた槍を持って


左手をおでこに当てていらっしゃる・・・


はぁ?存じませんね



とにかく カウンセラーである以上 クライアントのあなた様の幸福を願う ただそれだけです


先生 お元気で 自分の進む道が 見えたような気がします


あなたこそお元気で 人には使命があります


まずは あなたが幸せにならなければならない


その上で あなたの使命を果たしてください




さて


これがカウンセリングと言えるだろうか?


やはり師匠筋の仰る通り 自分などカウンセラーには向いていないのではないか?


本気でそう思ったし 事実半年ほど 休業した



拙文を書きながら



なんとなく このクライアントに感謝している自分が居る



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