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キラークライアント 最終回

さて


30万円といえば60kgだ


一体 誰に分け与えたのか


くだらない返答を聴きたくなかったので あえて質問はしなかった


とりあえず


タコツボには この撒き餌のお蔭で 再び入ってくれたそうな


期間限定で


そして 1年と続かず ついに 最終通告


もう罪悪感で 身動きが取れない 気持ちは全く変わらないけど


ここまで来ると 狡猾を通り越して クズいのひとことだ


お前は 時系列的に その時々の彼女を並べ立て 一喜一憂しているだろう


きっと素晴らしいコレクションだろうよ



しかし



彼女は お前の存在など とっくにDELETEしてる



これは男女関係の 定跡だ



イロハのイだ




それから暫くして 案の定 呼び出しのお誘いが来た



もう これで最後にしよう



そう決めて 呑み屋まで出向いた




さぞ 落ち込んでいるかと思いきや?



意外にさっぱりした顔していやがる




「んで これからどうするんだ?」



笑顔でヤツは言い放った



何も変わらないっす 初恋ってやっぱり刷り込み ってヤツですかねぇ?」



「変わらないって お前よぉ 」



「別にストーカーになったりしませんから ただ 遠くで彼女の幸せを祈って生きてゆくだけです」



「一生独身でかぁ?」



こんなに人を好きになることは 自分にはもう 出来ないと思うんです



呆れかえるのも 一回転すると 国宝級に見えてくるから不思議だ



始めはボッコボコに殴りつけて 目を覚まさせるつもりでいた



当たり前だ


しかし



不思議な眼をしていた

澄んだというか遠いというか底が知れない 綺麗な眼をしていやがる



たぶん



こいつ



今 幸せなんだ



悲しいくらい 綺麗なバカなんだ



何度も悔しい 情けない 嫉妬に狂う日々を過ごしただろう



そういう彼女のことばが 心無い仕打ちが



時として 魂を流血させ 垢をそぎ落とし 昇華してしまうことが


あるらしい


スーツもヨレヨレ 靴も磨いていない ワイシャツもクタクタ



でも こいつの生気は 逞しくなっていやがる



眼だけが らんらんと 射抜いてくる




作り物でない 笑顔を魅せる



カウンセラーは論戦などしない 論破もしない



感情のぶつけ合いもしない


どれだけ挑発されても 感情は乱さない


そんなクライアントにやられる訳もない


もう カウンセラーとクライアントという関係性は とっくに破棄している


だからなんでもあり のはずだ



本当に参る 敵わない クライアントってのは 


こういうヤツを言うのかもしれない



こいつには

負けた・・な

と 悟った



「おい小僧」


「勘定はいつも通りお前持ちだ その代りその身なり 何とかしろ」


「それじゃ クタクタの小汚ねぇ中年オヤジじゃねーか」



「スーツくらい買え 靴もきちんと磨け シャツはクリーニングに出せ」



先に帰ぇるぜ




30万入った封筒を 投げ捨てるようにカウンターに置いて



黙って 店を出た


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