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心躍る

ここ3〜4年、沈んでいた。
気分が落ちていた。
世界中が風邪をひいて引きこもって、みんなみーんな落ち込んで、当然と言えば当然、わたしもその中の一人になったわけだ。
「みんなそうだよ」でも気持ちは個人的なものだから、やはり辛い。

わたしは薬剤師で、病人に薬をお渡しするのが仕事だから、こういった感染症の大爆発が起きると、めちゃくちゃ忙しくなる。
cov19お届け、0410対応、ひっきりなしに来局する患者、コロナワクチン注射の充填、次々と無くなる解熱鎮痛剤の手配。
すごく忙しい。
わたしですら、てんやわんやになっているのだから、発熱外来の医療従事者がとんでもないことになっているのは容易く想像できた。
さらに、このタイミングで施設対応もめちゃめちゃ増えて、何だかんだでここ3〜4年、すごく忙しくなっていた。
家に仕事を持ち込まない主義なのに、パソコンの前に、仕事が山積みになっている。
土日祝日にも、仕事用スマホに連絡が入る。
本当にイヤだった。
楽しみにしていたエンタメが止まり、外食も出来なくて、わたしは監獄にいるように感じ始めていた。
そうなると、心も動かなくなる。

魂の固まるというか、とにかく、いろんなことを流れ作業みたいにこなしていく日々に、心が固くなっていった。
減らない仕事量を前に、次々と業務は増える。
キャパシティが狭いわたしにとって、プライベートへの仕事時間の侵略は拷問みたいで、日々疲弊してゆく。
徐々に患者数も減り、エンタメが再開し、黙食であれば外食もできるようになっても、わたしの心は疲れて、動くことはなかった。
何にも感動しなくなった。
本当に、何にも興味がもてなくなっていた。
こんな時、間抜け顔のMをいたぶれば、少しは熱くなって、活気も戻るのだけど、それをしたいとも思わなかった。
まあ、超密になる瞬間もあるわけだから(放置は好きではない)相手を見つけられなかったこともあるが。
ダメだな、と思った。
こんなんじゃ、ダメだよ。

折しもGoTo第二弾。別府に行くことにした。
主な目的は別府市にある「書肆ゲンシシャ」
(〒874-0902 大分県別府市青山町7-58青山ビル101 TEL.0977-85-7515)

わたしは昨年から、四肢切断をテーマにした物語を書き進めているのだが、嗜好として四肢切断を望む者の資料が、僅かしか見つけられなかった。
どうしても学術的な事に偏ってしまい、四肢切断愛好者の心理的側面を生々しく記載している資料が少ないのだ。
書肆ゲンシシャはエログロを数多く扱う古書店で、わたしの望む資料の取り扱いもありそうだった。
1時間1000円(紅茶かジュース付)、店内の本を読む事も出来る。
以前からTwitterで見て、行きたくて仕方なかった。きっとわたしの欲しいものが、そこにはあるはずだから。
でも行動するエネルギーが無かった。

『外表奇形図譜』『緊縛写真』『MORGUE』『まんが サガワさん』『What Remains』

よかった。

店主が選んでくれた本はどれも良く、わたしを熱くするものだった。
でも、四肢切断についての本は売れてしまったそう。
その本も含め、店主の藤井さんに四肢切断についての本を、何冊か教えてもらった。
取り寄せることが出来るものは、すぐに手配した。
しんどかったけど、来て良かった。
無理やりにでも動いてよかった。
心が、踊った。
久しぶりの感覚だった。

昨年死んだ佐川一政の『サンテ』を購入し、帰りの飛行機で読んでいる。
「ああ、人食いもやはり死ぬのだ」
人を突き動かす熱と死について、考えている。


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