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30. 「離婚してください。」

決して、夫との結婚生活すべてが苦痛だったわけではない。

夫が大好きで大好きで仕方ない時もあったし、だれよりも、夫のいいところを知ってるのは私。

なのに、出逢いからこの12年間を振り返った時出てくるのは、マイナスな想いばかり。

あの時、向き合うべきだったとか、
あの時、別れるべきだったとか、
あの時が離婚のタイミングだったのにとか、、

とにかく、別れたかったことしか、思い浮かばない。


夫とふたりで笑ったこと、
子供達とみんなで幸せを感じる瞬間、
楽しかったこと、嬉しかったこと、
たくさんあるはずなのに、

それなのに、嫌だったことばかりが、浮かんでくる。

坂口君への想いは、こんなにはっきりと思い出せるのに、夫にときめいた記憶が出てこない。


『結婚』することに必死だったあの頃。
あんなにしたかった『結婚』のわりに
『結婚』が何か分かってなかった私。

最初から違和感はあった。
でも『好き』って感情で蓋をしていた。
「嫌い」な部分も、「好き」で薄めてた。

そして、その『好き』が『嫌い』になった今、もともと『嫌い』な部分はやっぱり『嫌い』

人って、好きなものは変わるけど、嫌いなものは、やっぱり嫌いなんだなって思った。

あんなにしたかった結婚生活のほとんどが、離婚したいで占められいる。


私の将来の夢は、熟年離婚すること。

なんだそれ。

自分で自分に、嫌気がさす。


でも、、と、自分に言い訳をしてみる。

でも、みんな、若い時に、そんなにきちんと、考えて結婚されてるのだろうか?
20代前半で、そこまでの判断が本当に可能なんだろか。

結婚は勢いだ、とかもいうし。

それでも、いつまでもラブラブな夫婦ってのは、実際にいる。

じゃあ、何が違うのだろう。

単に、運がいいだけ?

ぴったりな相手に奇跡的に出逢えた夫婦ってこと?

私なんて、もう結婚3年目にして、離婚してほしい、って言ってるし。

違うな。

ようは、そこからだったんだな。

相手を好きじゃなくなってからの進み方。

私は、子供の存在で、ごまかそうとした。
家族家庭という枠、義務感だけで、乗り越えようとした。
だから、お互いに相手のせいにしてしまうのだ。

なぜ、同じ方向を見てくれないの?

私はこんなに我慢してるのに。
オレはこんなに努力してるのに。

結婚というのは、そういうものじゃないはず。




ガレージのシャッターが開く音がした。

玄関にむかい、夫を待った。

『おかえりなさい。
ちょっと、大事な話が、あるんだけど…』

「わ、わかった。」

私のただならぬ空気に、なにかを察したのか、夫は自分の母親に電話をした。





子供達は、親の家に泊めてもらうことになった。なぜか、リビングではなく、夫の部屋で話をした。

夫は、ぎこちない笑顔を私にむけた。

『一体、どないしたんや。何があったん?』

私は正座をして、大きく息をすった。

「離婚してください。」

それだけ言って頭をさげた。

しばらくしても、何も反応がない。

ん?

顔をあげたら…

夫は目をぱちくりしてた。


『青天の霹靂』というのは、まさにこういう表情なのかもしれない。

心底驚いているのがわかった。


そらそうだよね。
だって、昨日まで何も変わらず笑顔で奥さんしてたもんね。


色々あったけど、仕事も順調だし、お金もたくさん入ってくるようになったし、子供たちは可愛いし、

週末は外食。しかも、廻らない寿司だったり、高級焼き肉だったり。
車もベンツに乗れるようになったし、毎年必ずみんなで旅行。
子供は習い事三昧で、ブランドの子供服着せて、私は専業主婦で、エステに通って、着たい服をきて、誕生日には貴金属もらって。

『それの一体何が不満なんだ?オレは十分すぎるほど、夫として父親としての責任を果たしてるはず。』

ホントにその通り。

夫に落ち度はない。
落ち度があるのは私。

私は、家事は苦手だし、子供にも振り回されてるし、決していい奥さんではなかったからね。

でも、そんなことを言ってるんじゃない。

私は、何が嫌で、何を我慢してきたか…

子供が大人になるまで、我慢するつもりだったけど、 もう、限界だということを、淡々と伝えた。

「オレだって、我慢してきた。」

『でしょう? だったら、お互いにやり直そう。私はともかく、男の37歳はまだ若い。まだ、若いうちに、人生をやり直してほしい。
りょうちゃんのことを尊敬して、りょうちゃんの事を本当に愛してくれる人と一緒になってほしい。』

話は平行線のまま。




記憶が正しければ、その夜は寝ていない。

明け方近くまで、ずっと話し続けた。

ふたりがお店で出逢ってから、結婚するまで。

結婚してから。

子供ができてから。

会社をおこしてから。

ずっとずっと話し続けた。

それでも私は絶対に「離婚したい」を、曲げなかった。

そして、前回の離婚話を持ち出した。

『実は、あの夜から、気持ちは変わってない。3番目の子を産んで退院した日、この家に帰ってきて、もう2度とあなたの子供は産みたくないって思った。』

初めて、夫は黙りこんだ。
ひどくショックを受けてるようだった。

「10年近く、離婚したいと思い続けてたなら、もうムリだね。よく分かった。出ていくよ。」





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