見出し画像

2. 毎日がキラキラ輝きだした。

神様のいたずら



突発的に引き留めたものの、彼には次の配送がある。しかも、急だったので、書類も持っていないとのこと。

夕方6時頃に、もう一度うちに来てくれることになった。その時に手続きをする約束をした。

やった!!
また、顔が見れる!

それに、わずかだけど彼の成績にもなるだろう。少しでも彼の役にたちたい!

もうそこからは、ウキウキわくわくテキパキ家事をこなしていった。

子供達を叱りつける声もにこやかに弾んでた。


何度も鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。
化粧直しも、完璧。
髪型も、直しすぎて正解がわからなくなってきた。

何度も時計も確認する。
もうすぐ、6時だ。

そわそわ、緊張が走る。


そこに、ピンポーン。

鳴った!
やばい、来たー!

大きく息を吐いてから、インターホンを確認した。


え!?  目を疑った。
そこに立っていたのは、夫だったから。

………うそ。
なんで、こんなに早いの?!
いつも、19時は、絶対にすぎるのに!!
なんで、今日に限って……。

自分のあまりの落差に体が追い付けない。
こんなに夫の顔を見てがっかりしたのは、初めてかもしれない。

なんで、帰ってくるのよ………
落胆が半端ない。


そのタイミングで、再び、ピンポーン。

…マジか。。

帰ってきたばかりの夫が対応した。
そらそうだよ。そこに、いきなり私が割り込んだら不自然だ。

『あこ、なんか生協の人来たで~』

……知ってるよ。
仏頂面のまま、玄関を出た。

待ちに待った彼がそこにいたのに、笑顔が作れない。どうしても落胆から抜け出せない。

『あの~』

彼が話そうとしたのをさえぎった。

「ごめんなさい。急に用ができてしまって。用紙は書いとくので、また、来週の配送の時に渡します。すみません。」

そういって、そそくさと書類を受け取り、家の中に入った。


たぶん、彼は、唖然だろうなぁ。わざわざ配送終わりに、また戻ってきてくれたのに私のあの態度。
昼間とのテンションの差よ…。
なんなん?あのばばぁって思ってるかもなぁ。

くそ~。
夫のせいじゃないけど、夫のせいだ。

くそぉ~。

それまでとはうってかわって、暗~い顔で仕方なく家事を続けた。


この「夫が帰ってきたが為にとった私の行動」が、大きなターニングポイントだったことを知ったのは、ずいぶん後のこと。

蓮は、やはり、うちの班の新しい担当者ではなかった。その日、本来の担当者が突休で、たまたまピンチヒッターとして、来ただけだった。当時、蓮が受け持っていた配送コースから、私の家は大きく外れていた。だから、その日限りしかうちには来ない予定だった。

ところが、いきなり、私が保険に入ると言い出したので、来週に伸ばすとその本来の担当者のポイントになってしまう。だから、その日のうちにと思って、再度訪問したのに、今度は来週に延ばされてしまった。そこで、その契約欲しさに、翌週もうちに来ることにした。

そもそも、蓮だけではなく、他の担当者の配送コースからも、私の家だけポツンと離れていたようで。だから、どの担当者も行きにくいというか行きたがらなかったそうだ。

だから、ついでに『なんならもう僕が担当しますよ。』と、蓮がうちの班を、自分のコースに割り込ませたらしい。

つまり皮肉なことに、夫のおかげで、蓮と毎週逢えるようになったというわけで。

まぁこの時は、ふたりが付き合うようになるなんて、お互い夢にも思っていなかったけれど。



決戦は木曜日


そんな裏事情があるとはつゆしらず、私は蓮が新しい担当なんだと、そわそわしていた。

配送は、毎週木曜日。

初対面、2回目と、かなり意味不明な態度をとってしまったので、なんとか挽回したい。

まずは、部屋を大掃除して、家具の大移動。
目的は、ドレッサーの位置を変える為。
太陽の光がいっぱい入る場所に移動させた。
自分に光がたくさん当たり、自分がよく見えるようになった。これで、日中、人に見られてる自分の肌とかがよく分かる。

今更だが、美容の本を買ってきて毎日メイクの勉強をした。

それまでは、子供服を買うのに夢中だったのに、何年ぶりだろう…自分の服を買う為に出かけるなんて。

産後、ダイエットはしてみるものの、続いた試しがなかった。運動も嫌い、お酒大好き、唐揚げ大好き。

そんな私が、ジョギングを始めた。
毎晩、夕食の後。

走る為に少ししか食べないし、お酒も飲まない。
最初は、近所の公園一周から始めて、次第に1時間近くジョギングできるようになった。

夫は、いきなりの私の変化に驚いていたが、『いつまで続くやら』って感じで、たいして何も言わなかった。

まさか、不純な動機だとは、思ってなかっただろう。
しかも、不純な動機ほど、ダイエットには効果的なようだ。

少しずつだが、自分の容姿が変わっていくのが楽しくなっていった。

すべては、木曜日の為。

配送の時間が近くなると、毎回落ち着かない。鏡の前を、いったり来たり。

そして、配送が終わると、ひとりで反省会。
今日の自分の言動がおかしくなかったか、リピートしてみる。

彼が何を話したか、誰と話したか、何回目が合ったか、何回にっこりしてくれたか、何度も何度も頭の中で再生する。

で、ぽーっと余韻に浸る…。

やっぱり、ただのアホ。


でも、それだけで、私は十分だった。

身近なアイドル感覚。単なるファン。憧れ。ドキドキをくれる存在。

ずっとそのままでよかったのに、どうして、人は欲がでてしまうのだろう。


3ヵ月が過ぎた。

この記事が参加している募集

#忘れられない恋物語

9,153件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?