29. 変われなかったのは私。
2ヵ月ほどかけて、一通り検査をしてもらった。
特に大きな問題はなく、1番シンプルな方法。タイミング法で、私はすぐに妊娠した。
よし。
夫も義両親もとても喜んでくれた。
すぐに、仕事は辞め、妊娠出産の本を買い漁り、私の頭の中は赤ちゃんのことで埋め尽くされた。
10ヵ月に入るとさっさと実家に戻り、母親に立ち会ってもらって無事出産。産後も含め、結局2ヵ月ほど家を開けた。
初めての出産ということもあり、とにかく赤ちゃん一色で、夫のことを思いやる余裕など全くなかった。
家に戻ってきてからも、お義母さんに助けてもらいながら、赤ちゃんのことだけを考えて暮らしていた。
熱を出したら、お義父さんに車で送り迎えしてもらい、食事以外の家事はほぼお義母さんがしてくれていた。
今、思い出しても、本当にあちらの両親にはお世話になった。
つまりだ。
夫は、ほとんど、長男の子育てに携わることがなかったということ。
見ててね。と言ったら、本当に見てるだけ。
泣けば、すぐに、お義母さんを呼ぶ。
おむつひとつ替えることができなかった。
そんな父親にしてしまったのは、間違いなく私なのに、その頃は、全く手伝ってくれない、理解してくれないと、不満しかもっていなかった。
おまけに、こんなに疲れてるのに、『したい』という。
いや、無理だし。
おっぱいは、長男の為のモノ。触られるなんて汚らわしい。
完全に拒んだ。
そして夫も、それ以上は、求めてこなくなった。
私達は、産後、完全にレスになった。
私はそのことを、気にもかけなかった。
普通に考えて、1年以上も何もなしが、27歳の男性にとって普通ではないことは、分かっていた。
でも、外でしてくればいい。
本気でそんなことを思っていた。
首がすわった。
寝返りできた。
お座りできた。
立ったよ!
長男の成長が、私のすべてだった。
完全に、私達夫婦はすれ違っていった。
ここまで書いて、指を止めた。
キーボードから手を離し、画面を見つめた。
もちろん、次に何を書くかは、分かってる。
この後、私は夫に離婚してほしいと、切り出したんだっけ。
思いつきで始めたブログ。
W不倫に足を踏み込んでしまった不安から始めたブログ。
『誰よりも好きなのに』
わりとすぐに、ブログ内で仲良くコメントやメッセージを交わせる、いわゆるブロ友さんというのができ、日が経つにつれ、どんどんブログが楽しくなっていった。
最初は、蓮への気持ちや、みんなと同じようにデート報告を書いていたが、そんなにすぐに変化などあるわけもないし、毎回ネタがあるわけでもないし、書いてる私自身もつまらない。
ただ、文字におこすことで、自分の気持ちが、整理され、はっきりと見えてくるということがわかった。
この際だから、自分自身の軌跡をたどってみよう!
そこで、初めての彼氏からの、課長の愛人だった頃、そして夫との出逢い、結婚生活。
まるで、日常から逃げるように、ひたすら、ブログに書き綴っていった。
普通ではない私の今までが、珍しかったのか、
(小説みたいですね!)
少しずつ、フォローしてくれる人達も増えていき、元々、文章を読むのも、書くのも好きだった私は、どんどんブログにのめり込んでいった。
次は、夫に離婚を切り出した話を書かなくては…。
当時のことを、ゆっくり思い出した。
子はかすがい。
それを信じて、長男を授かったけど、それは、大きな間違いだったとすぐに、気づいた。
ただでさえ、価値観が違いすぎる私と夫。
でも、自分達のことは、我慢できた、譲りあえた、呑み込んでこれた。
大人だから。
ところが、子供が産まれたら、そうはいかなくなった。
自分のことは譲れても、子供のことになると、お互いに譲れない。
たとえば公園で、お友達に叩かれても、やりかえしたらダメよと、私は教える。
夫は、男なんだから、やられたら、やり返せと、言う。
いや、おかしいやん!
子供を挟んで言い争いが始まる。
そんな感じで『かすがい』どころか、より一層、喧嘩が増え、すべてが嫌になった私は、夫に離婚してほしいと頼んだのだった。
夫は、
態度を改める。もう一度、チャンスが欲しい。必ず、自分は変わる。今からのオレをみてほしい。
そう言って土下座をした。
そんなことは望んでいないのに。
あの、離婚話をした日から10年近くたっている。
夫は…変わったといえば、変わった部分もあるかもしれない。
でも、本質的な部分は変わっていないし、私達夫婦の関係も、さほど変わっていない。
ただ、私達を、取り巻く環境は変わった。
子供は、3人になったし、義両親は同居を解消し、今は近所のマンションに住んでる。
そして、夫が7年ほど前に立ち上げた新しい会社が、見事に起動にのり、生活が目にみえて裕福になった。
恵まれた生活。
のはず。
なのに、私は……。
ブログの世界は、鏡の世界だった。
そこに迷い込んでしまった私は、否応なしに自分の姿が、自分の心が、見えてしまった。
私は、続きを書くのをやめた。
パソコンを閉じて、夫の帰りを待った。
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