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半自動筆記に依る夜想曲(14)-3(終) 『痴愚』-3(終)

 頭の中は輝き煌く一番星で一杯に為って居た。弾ける星の光は、偏りの有る幻想を思いださせ乍ら、緩やかに霧が晴れる様にして消え去って逝った。
 気が付けば、私は先程の密林の外れに仰向けに為り、空を仰いで居た。
見れば、空の色は只の暗色では無く、紫や紅色等、様々な色をした夜空だった。
 起き上がって辺りを窺うと、周囲の密林も又、夜とは思え無い七色の光に満ち満ちて居た。
しかし其の何も彼もがまばゆい景色の中には、彼の玲瓏たる偉大な詩歌美神Μούσαϊοςの姿は無かった。
 すると頭の内側から私に語り掛ける声がする。

『良くお聞き、迷える我が仔よ。私は詩歌と技芸、それ等のすべ』を執り行う者を励起れいきし、守護を担う者だ。
『其の権能ちからは、およそ筆舌の及ぶ限り、あらゆる森羅万象を、形容かたちの有無、存在の理非を問わず、あまねく描き出す事が出来る。
『しかし乍ら、私自身には、自らを詩に控えて此の世に存する事は、出来無いのだ。死した者が再び口を開く事が無い様に、私自身では、何も如何どうする事も出来無いのだよ。
『其処で、私は君が必要に為った。そして、力を信じて欲しいと思った。救えるものなら、君の哀しみを拭い去りたいと思った。遣る気を無くした君の魂に、力を上げる。だから、私と共に行こう、私にも君が必要だから、どうか私の手足と為って力を貸しては呉れないだろうか。』

 心の中に、彼の柔らかな微笑が、垣間見えた様な気がした。やがて、夜明けが訪れ、私は森を後にした。頬を伝う滴に、希望の光を輝かせ乍ら。

〈了〉

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