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御託

私は歩いていた。
荒廃した都市を。
無人の商店街を。
人々の遠い営みとすれ違う。
刹那の邂逅に私は嬉しさと煩わしさを同時に抱えて、海に向かった。
雨が降っていた。


長年不思議に思っていることがあった。
成長するにつれその違和感は膨張し、私を苛んでいた。それは世間であり、社会であり、政治であり、固定観念であり、己の認識でもあった。
こんなものは全て嘘だ。虚構だ。デタラメだ。
自身に課した呪いを、世界中に貼り付けたラベルをひたすら剥がす。この数年はずっとこうだ。
歪な形で正義ヅラする構造物を全て解体し、分解し、粉砕する。木っ端微塵。
苦渋の分までおまけでつけて、砂と灰に還してあげよう。ああ気分がいい。

全ての呪いを解いた時、きっとここには海しかないことに気づくのだろう。

どこまでも広がる水平線に溶け合う青と、白い砂。境界は融解し一つの美しい色彩へと交じり合っていく。いい眺めだ。

それでもやっぱり私は作家だから、砂で何かを創るのだろう。呪いも気に食わないけれど、いくつか残してやってもいい。砂の城だって残してやろう。私はそれくらいの余裕は持ち合わせているから。
最期にはきっと、海すらも幻だと気づくのだろう。でも私は残しておくよ。海が好きだからね。


皆が勘違いしてることについて語ろう。
つまり、私が観測した時からこの世界は始まったということについて。

私が観測した時、初めて大地は隆起し、波が動き、草木が芽生えたのだ。そこらへんを勘違いしてくれるなよ。

それがわかっていない者が多すぎる。
君の世界の話じゃない。こっちの話ね。
君の世界は君が観測した時に初めて産声をあげたんだ。君はこの世で一番強い磁力を放っているんだ。意味わかる?まぁ、わからなくてもいいか。それも愛。私の破片を見つけてくれてありがとう。

御託。

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