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【創作大賞感想】親愛なる子殺しへ

「ミステリー小説部門」のハッシュタグがついた記事一覧を眺めると、不思議なタイトルの作品が目に飛び込んできた。
この言葉の組み合わせを見過ごすことなんて、私にはとても出来ない。

子を産み育てた経験があろうとなかろうと、「子殺し」というワードに「親愛なる」をつけたタイトルを見て、思わず眉を顰めないでいられる人は果たしてどれほどいるのだろうか。
古今東西、未来永劫、「子」はかわいらしく、守られるべき、愛されるべき存在なのに。

戸惑いながらクリックした記事。
「あらすじ」の冒頭にはこう書かれている。

「育てにくい子」である一人息子を抱える主人公は、孤立無援の状態で思い詰めていた。

「親愛なる子殺しへ」あらすじより引用

たったその一文で、SNS上に飛び交う容赦ない「正義」の言葉が目に浮かぶ。鋭い刃となった言の葉は、母親の体中に容赦なく突き刺さる。

「子育てなんてみんな大変。だけどみんな頑張ってます」
「育てにくいって言い訳になる?」
「公的支援でも頼ればいいのに」


「だったら産まなきゃよかったんじゃないですか?」


すべて私の妄想であり、すでに消えた過去であり、今も続く悪夢でもある。

この時代に子を持つことも、子が育てにくい子であったことも、誰かをうまく頼れないことも、助けて欲しいと泣き叫びながら必死の思いで伸ばした指の先には――

そこには 誰もいないということも

鬱になるという結果ですら

すべて「自己責任」の世の中なのだ。

だから私は、この作品の主人公と過去に繋がりのあった「子殺し」の母親を、決して擁護などしない。
亡くなった子には何の罪もないのだから。
どんな事情があるにせよ、それは言い訳だと声高に断罪するしかない。
それが正しい親の在りかたなのだから。

そうでしょう?
そうやって みんな 生きている。

そして
悲劇を繰り返す。


だから
助けて欲しい。
全ての母親を
愛されるべき全ての子どもたちを
救って欲しい。

あの日の私を

***

作品紹介や感想ではなく、単なる心の叫びになってしまいました。
上記は「創作半分」と思って読んでいただけたら幸いです。
我が子は先日、元気に成人(18)を迎えました。わぉ。

「実際にあったショッキングな事件が元になっています。繊細な方はご注意下さい」

という注意書きがマガジンの説明に書かれていますが、血なまぐさい残虐なシーンがある訳ではありません。
ただ繊細ではない私でも、読了後に「引きずる」ものがあります。(それを感想という形で昇華させようとしています)

2008年に起きてしまったその事件は、私にも記憶がありました。成人を迎えたと書いた子が、ちょうどイヤイヤ期や赤ちゃん返りなどしていた頃ですから。当時の私がどのような思いでニュースを見ていたか。それは伏せておきます。

この作品は、どこまで事実でどこから創作か、分からなくなるほどリアルです。
主人公(創作)の心の動き、悩み、後悔、葛藤、全てが手に取るように伝わります。
そして主人公と一緒になって、孤独を感じ、虚勢を張り、怒りに身を任せ、そして、考えることができます。
否、考えつづけなければいけないのです。

また、時折挟まれる会話文の「博多弁」(ですよね?)がまた物語を生々しく感じさせ、小説として「うまい!」と言わざるをえません。

作者、ふたごや こうめ さんについて触れます。

初めての100%創作小説、「だけど願いはかなわない」は、メフィスト賞『印象に残った作品』に選ばれました

ふたごや こうめ さんのプロフィールより

なるほど。
肩書で作品の善し悪しが決まるわけではないけれど、「知らない人」、しかも「素人」の、最低でも2万字あると分かっている作品に手を出すのは結構勇気が必要です。(現在はnoteもTwitterもフォローさせていただきました。これから他の作品も読みたいです)
ですが、この作品を読むことは決して時間の無駄にならないとお分かりいただけたと思います。

***

ただし!
最後にひとつだけ、読者の方に注意を促します。
この作品は3つに分かれています。その名も「前編」「中編」「後編」。

それなっ!
本屋で「前編」「後編」だけ買って、なんかおかしいなと思ったら「中編」なんてあったんかいっ! ってやーつー!

「前編」にすべてのリンクが貼られていますし、続けて読めば自然と飛ばすことはありませんが、「後編は明日読もう」なんて思っているとウッカリしますからお気をつけあれ。

***

さらに!
子育てに関連した私の作品も、よかったらご覧ください(ちゃっかり宣伝)


親愛なる ふたごやこうめ様

これからも双子の子育て、創作活動、応援させていただきます。この作品を書いていただき、誠にありがとうございました。

豆島 圭


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