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”笑い”から東ドイツ社会に迫る/伸井太一・鎌田タベア著『笑え! ドイツ民主共和国』試し読み

今回は好評既刊の試し読みです。

伸井太一さん・鎌田タベアさんによる『笑え! ドイツ民主共和国』。
人びとの間で密かに共有された“笑い”から、東ドイツ社会を解剖した一冊です。

それでは早速、試し読みをどうぞ!


■ジョーク大国「東ドイツ」?  またまた、ご冗談を

1990年10月3日まで、ドイツの名を冠する共和国はふたつ存在していた。本書は、そのなかで「消えてしまった方」を扱う。それはドイツ民主共和国、通称「東ドイツ」、あるいはDDR(デー・デー・エァ/エル)である。21世紀の今、東ドイツと聞いて思い浮かべるイメージは、社会主義、一党独裁、モノ不足、ソ連の衛星国家、監視国家、スパイなどだろうか。本書はここにもうひとつ付け加えたい。それは、「ジョーク大国」だ。「お堅いイメージのあるドイツで、しかも東ドイツでジョークだって、またまたご冗談を……」と思われるかもしれない。しかし、もうひとつのドイツ共和国であるドイツ連邦共和国(西ドイツ)政府には、東独ジョークを収集する部局があったと知れば、冗談ではすまされない事実だと分かるだろう。実は、東ドイツではジョークは取り締まりの対象だったのである。

このように、冗談が冗談にならず、それが同時に冗談のようにも感じられてくる点、しかしやはり冗談ではないこと……。本書『笑え! ドイツ民主共和国DDR』は、これらの点を衝こうと試みている。タイトルは、「笑い」さえもが東ドイツの政治に管理・統制されていたことと、「笑わなければやってられない」ことを暗示するものとした。つまり、「ジョークによる笑い」にはリスクがあったのにもかかわらず、人びとはそれを口に出した。これを「精神的抵抗」と捉えるならば、生きる逞しさがここにある。

同時に、社会・政治状況は東ドイツのジョークとも密接に結びついている。本書は、この点を詳しく解説している。いわば、背景から東ドイツ・ジョークを理解し、逆にジョークを入り口として、東ドイツの歴史や生活について知るための本である。

もう一歩進めてみれば、個々人や集団から発せられる「笑い」は、あくまでヒトという動物が「人間」であるための条件のひとつである。ジョークには、誇張やフィクションがあるとしても、東ドイツの人びとの「一片の真実」が含まれているのではないか。つまり、政治などの大状況だけでは理解しきれない「東ドイツの人びとの生き様」が映し出されているのではないだろうか。

(本文の3頁につづく)


■本の紹介
・伸井太一/鎌田タベア著『笑え! ドイツ民主共和国〜東ドイツ・ジョークでわかる歴史と日常〜』

▶本の購入はこちらから

今回は導入部分をご紹介しました。
以後、3回にわたって試し読みを配信していく予定です。

次回は「東独の笑いは届くのか?」。お楽しみに。


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