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『映画に学ぶ』シリーズ/川口恵子・川口裕司著『映画に学ぶ英語』試し読み

『映画に学ぶ』シリーズ最新刊!『映画に学ぶフランス語』が5月24日に配本になりました。
これまで編集部noteではフランス語、

スペイン語、

とご紹介してきましたが、今回は『映画に学ぶ英語』。
これまでの2回と趣向を変えて、解説部をお見せします。
記事の目次は、下の通りです。



取り上げるのはジェンダー視点からみた映画。
リドリー・スコット監督作『テルマ&ルイーズ』(1991)
ジョー・ライト監督作『プライドと偏見』(2005)です。
それでは中身をどうぞ。

*引用文には現在では差別用語にあたる表現が含まれていますが、映像資料としての性格を鑑み、そのまま掲載しています。


■試し読み

・『テルマ&ルイーズ』

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テルマ:よくわからないけど…私の中で何かが一線を越えたの。もうあと戻りできない。どうにもならないわ。
ルイーズ:ええわかるわ。ともかくゴシップショーみたいに笑いもので終わりたくないわね。

リドリー・スコット監督『テルマ&ルイーズ』(1991)

<セリフの背景>
女たちのロードムーヴィー『テルマ&ルイーズ』の中で、夫に虐げられた主婦テルマが、荒野を疾走する中で解き放たれ、発するセリフだ。
ジーナ・デイヴィスが主婦テルマ役を、凛々しいスーザン・サランドンが勝気なウェイトレスのルイーズ役を美しく演じる。監督はリドリー・スコット。アカデミー脚本賞を受賞した女性脚本家はカーリー・クーリー。後に南部女性の友情を描く『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』Divine Secrets of the Ya‑Ya Sisterhood (2002)を監督した。
暴力をふるう夫の顔色をうかがってばかりの主婦テルマは、女友達ルイーズと週末を過ごしに出かけた先で、酔っ払いの男性に襲われそうになる。過去にテキサス州で性犯罪にあったルイーズはテルマを助けるために男を射殺する。そこから二人の逃亡劇が始まる。アーカンソー州からわざわざテキサス州を迂回して、最後はアリゾナ州のグランド・キャニオン峡谷へと。
何からの逃亡か? 無論、彼女たちを取り巻く男社会からの逃亡だ。しかし、ありきたりのフェミニズム路線映画と違って、男社会の描き方にニュアンスがある。中でも、テルマの家出後、残された夫の家に張り込んだ刑事たちと夫の会話が巧みだ。刑事マックスは、もし奥さんから電話がかかってきたら次のように振舞えと夫にアドヴァイスする。

ーーーーーーーーーー
マックス:奥さんから電話があったら、優しくしてくださいよ。声が聞けて嬉しいような感じで。お前がいなくて淋しいみたいに。女はそういうバカげたことを喜びますからね。

 “Women love that shit.”と言って夫と刑事たちが共犯的な笑いを浮かべるところがこ憎らしい。無論、電話をかけてきたテルマは夫の「もしもし」だけで気づくのだが。映画の数少ない笑いどころだ。(中略)
二人の女たちはそんな男社会に愛想をつかし、66年型フォード・サンダーバードでアメリカの荒野を逃走する。ジョン・フォードの西部劇でお馴染みの高い山の見える荒野を1970年代フェミニズムの洗礼を受けた女たちが疾走するのだ。
疾走するうちに、臆病だった主婦テルマは、次第に野性に目覚めてゆく。荒野を駆け抜けるうちに、心も体も解放されていった彼女が言うのが、冒頭のセリフだ。

(本文112頁につづく)

・『プライドと偏見』

ーーーーーーーーーー
ダーシー:ミス・エリザベス、もはや抗うことはできません。これ以上は耐え難い。この数ヶ月、苦しみの連続でした。貴女に会うためだけにロジングズに来たのです。良識、家族の期待、貴女の身分、私の地位に抗ってまでも。今はそれらをさておき、貴女にこの苦悩を終わらせていただきたい。
エリザベス:どういうことですの?
ダーシー:貴女を愛しています。心から激しく。どうかこの申し出をお受けください。

ジョー・ライト監督『プライドと偏見』(2005)

〈セリフの背景〉
英国の女性作家ジェイン・オースティンの代表作『自負と偏見』(1813)の映画版で、ミスター・ダーシーことフィッツウィリアム・ダーシーが初めてエリザベス・ベネットに思いを打明けるセリフだ。原作では室内だが、映画版では激しい雨の中、告白する。1995年に放映されたBBC製作のTVドラマ版で有名になり『ブリジット・ジョーンズの日記』のブリジットを夢中にさせたコリン・ファース演じる「濡れたシャツ姿」はないが、マシュー・マクファディンの貴公子的マスクが雨に濡れ、原作にはないひたむきさを加味する。エリザベスを演じるのは時に少年のように果敢な表情を見せるキーラ・ナイトリー。登場以来、自分の感情を外に表さなかったダーシーが、一気に思いのたけを打ち明ける場面だけに、“I love you. Most ardently.”というセリフが新鮮に響く。しかし、これ以外のダーシーの言葉はエリザベスを怒らせる。プロポーズにもかかわらず面と向かって身分の違いに言及し、格上の自分が求愛する以上、受け入れられて当然という傲慢さが見えるからだ。原作で「良い返事をもらえると彼が信じて疑わないことは彼女の目に明らかだった」she could easily see that he had no doubt of a favourable answer.(Jane Austen, Pride and Prejudice, Penguin Books, 1994, p.148)と書かれたのである。
かくしてエリザベスは求愛をばっさり拒否する。最大の理由はダーシーの「傲慢プライド」に対する彼女の「自負プライド」であろう。「偏見プレジュディス」も双方にある。断る時のセリフが小気味良い。

(本文147頁につづく)


■好評既刊

・山口裕之著『映画に学ぶドイツ語』

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いかがだったでしょうか。

『テルマ&ルイーズ』は33年を経た今、女性同士の連帯(シスターフッド)映画の金字塔として、4Kレストアで上映されています。
気になった方は劇場でみられるチャンス!

次回は『映画に学ぶドイツ語』。
「悪の凡庸さ」を問うた哲学者に関する作品を取り上げる予定です。
お楽しみに。

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