ライ麦畑

※BANANA FISHネタバレ注意




 BANANA FISHを読み終えた。読んでいる間中、というか、読んでいない時ですらも、最終巻を読み終えるまでは、なんだか心が落ち着かない感じがしていた。

 
 そのせいかは分からないけれど、読み終わってしばらく呆然とした後、急激に眠気が襲ってきて、30分ほど眠ってしまった。そういえばここんところ、変な夢を見たり、朝早くに目覚めたり、夜寝付けないことがあったもんな。このように、BANANA FISHには精神を支配してしまう力があるのです。(あってるけど違う)

 
 ずーっと、アッシュを応援していた。アニメを先に見ていたので、結末は知っていたけれど、それでも私は、応援せずにはいられなかった。彼がひたすらに自由を求め、大切な仲間、親友を守るために、一生懸命に戦っている姿を見て、私もついつい力が入ってしまった。(そのせいか通常の3倍は眼精疲労してます)富や権力なんて、どうだっていい。純粋に、今の状況を抜け出して、ただ空を飛ぶための翼を求めていた。英二のように、空を飛びたかった。そのまっすぐさが眩しくて、周りの人たちや読者は、彼に魅了されるのだ。

 アッシュになりたい、と思ってしまった。もちろん、彼の立場は、今の私の数億倍はつらいだろう。望まない争いの中で血を流し、他者を傷つける。愛する者が去ってゆく。それをわかっていながらも、私はアッシュになりたいと思う。強さ、精神の高貴さをもって、己の力で自由へ突き進んでいける、その姿にあこがれる。
 
 アッシュには絶対の信仰者か、敵対者か。それしかいない、とユエルンは言っていた。私は前者である。登場人物のおおよそは、この二つに分けることができる。

 
 でも、そうではない人もいる。英二だ。二人は、お互いに尊敬しあっていて、大事に思っていて、守るべき対象だと思っている。友達以上の、魂の結びつきがあると思う。お互いに似ている、と思いながらも、でも決して届かない、とも思っているだろう。英二は、アッシュのように強くなって、彼を運命から守りたいと思っているし、アッシュは、穢れのない、英二にふさわしい人間になりたいと思っている。

 
 アニメ版だと、最終話のサブタイトルは、「ライ麦畑でつかまえて」となっている。
 
 BANANA FISHに出会う前に、この話を読んだことがあったが、その時はいまいちピンとこなかった。主人公のホールデンに対して、「もう!なんであんたはうじうじしてばっかりで、何もしないのよ!大人に思うことがあんなら、窓ガラスの一つでも割ってみたらどうなんじゃーい」と思っていた。サリンジャーさん、ごめんなさい。私も、中学生の頃は、「けっ、大人なんて結局は汚いインチキ野郎なのさ・・・」とひねくれていた時があったので、そのうっぷんをホールデンに晴らしてほしかったのだが、彼はずーっと独白めいたことをするだけで、何もしないじゃないか、ともやもやしてしまったのだ。

 
 でも、ライ麦畑で書きたかったのって、大人への反抗、というよりかは、無垢へのあこがれ、そこから遠ざかってしまう自分に対するやるせなさや失望、なんじゃないか、と思い始めた。私は別に評論家じゃないし、5月ぐらいに読んでから一回も読んでないので、ずれたこと言ってたら申し訳ないけど、でも、BANANA FISHを見て、私はそう思った。

 
 アッシュが、マックスの息子(ジェシカの、って言ったほうがいいんかな?)のマイケルに対して、すごく優しいまなざしを向けていたのが印象に残っている。ジェシカ宅に悪い連中が押しかけてきて、アッシュがマイケルから事情を聴いた後に、「ごめんな、つらいことさせちゃって」みたいなことを言ってた。アッシュは、子供には子供らしく、純粋なものはそのままでいてほしい、と思っている。キッズポルノを自身もやらされたし、ほかにそういうことをやらされた子供を何人も知っている。だからこそ、大人の汚さみたいなものに人一倍敏感になってしまう。

 
 それはどこかホールデンに重なるところがある。ホールデンは、妹や子供には敵意を見せず、普通に会話することができていた。そして、ライ麦畑の端っこから落っこちそうになった子供を、捕まえる仕事がしたい、と言っていた。自分はもう大人になりかかっていて、かつてのように純真な子供ではいられない。だから、「自分の側」に子供たちが来ないように、自分が「キャッチャー」になりたいと思っている。

 アニメ版二期のedでは、アッシュがライ麦畑にいて、光に包まれる英二を見つめるシーンがある。いつもなら、アッシュが前に出て、英二を守る、という構図が多いのだが、この映像では、英二が前にいる。アッシュは近くにいながらも、英二に触れることができない。触れたらきっと、英二が汚されてしまうから、なのだろうか。

 
 だから、「キャッチャー」は英二でもあると思う。アッシュの魂が、崖から落ちないように。アッシュは、英二の身体に傷がつくことを恐れていた。でも英二は、アッシュの心が血を流すことを恐れていた。

 
 最後の最後で、英二はアッシュの魂を空へ解き放つことに成功したのだ。上空から見たら、きっとライ麦畑はちっぽけに見えるだろう。雲の上には、スキップやショーターやグリフィンがいて、暖かい光だけが満ちている。そう信じずにはいられない。せめて、魂だけでも、救われていてほしい。


 やっぱり私は、アッシュになりたい。自由という、ただ一つの目的に向かって、懸命に生きてみたい。そして、英二という魂の友に出会いたい。


 

 アッシュ万歳。あなたの生きざまが、私に勇気をくれた。



 ありがとう、アッシュ。 

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