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【読書感想文】傲慢と善良/辻村深月

読むと心が痛いけどとても大切な1冊になった本。

女性が日々感じている恋愛や結婚、交友関係においてのモヤっとした気持ちや言い表せない自分の感情や社会的な状態を見事に言語化していて、読んでいて疲れてしまうほどに細かい心理描写と的確な思索。
女性ならグサグサと刺さってしまう言葉と描写の数々にとても驚かされた。
大体の人の人生や恋愛は「傲慢と善良」によってい説明できてしまうのではないかとも思えるほどに、身の回りのことや自分のことが当てはまりすぎて怖い。
特にリアリティーを感じたのは主人公架の婚約者真実の母親。自分の見える世界の中だけで妄想が膨らみ世界が完結している感じ。自分の理想を娘に押し付けて、自分の家のことは棚に上げて結婚相手の家のことは心配だと言って何かとケチをつける。自分の母親がまるっきりその通りではないにしても専業主婦である母親の視野の狭い感覚に近いものを感じてグサグサと描写が刺さる。
真美についても少し自分を重ねてしまうところがあった。彼女ほどに嘘がつけないバカ真面目ではないと自分では思っているが、それでも世間に比べれば世渡りが苦手でまじめすぎる部分があり、故に苦労した部分が多かったと感じている。飲み会の場も苦手でしばしば萎縮してしまうことがあるが、恋愛や交友関係においてうまく波乗りするように人生を謳歌している友人や同僚を見てすごいなーとなんとなく思いながらも、自己愛が強くて努力しようとはしない真実と重なってグサグサと刺さった。
どうして気づいてくれないのか、どうしてわかってくれないのか。自分で言わなければ気づいてくれないに決まっているのにそのことに気がつけない真実の気持ちがかつての自分を見ているようでたまらない。
こんな重たい描写が続くのだが、中盤はミステリーを読んでいるような感覚もあり、重たいながらもストーリーに引き込まれるように読み進めることができた。終盤はとても綺麗な形に落ち着いて美しい情景も相まって読後感はとても清々しいものだった。
辻村深月さんの的確な心理描写や言語化力にただただ圧倒され続け、次に読む辻村さんの作品をどれにしようかともうすでに悩み始めている。
9月の映画公開も決まっているようで、一つ楽しみが増えたことがとても嬉しい。

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