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【エッセイ】文芸部作品批評会の思い出

私が学生時代に入っていた文芸部には「1年生は必ず最初の批評会までに何か書いてくること」という決まりがありました。

伝統ある団体だったので、和やかでありつつも毎回のように厳しい意見が出て、泣いてしまった人も見たことがあるくらいです。
1年生の初回で酷評されてそれ以来何も書かなくなる人も毎年いました。

私が最初の批評会に出した短編の評価は散々なものでした。
「なんかいまいち」「つまらない」という意見が多かったです。

内容はたしか学生の主人公が街を歩きながら過去を振り返るという感じです。
「うーん、何かねえ、散文調っていうか、ポエムっぽいっていうか、よく分からないよねえ……」
「面白くないっていうより、まずは小説として読める構成を作らないと」みたいな感じで先輩たちは首をかしげていたような記憶があります。

ちなみに大学1年生の最初の作品は高校時代の恋の思い出を書いてくる子が多いです。
地方出身の子は進学のために恋人と別れたと言っていて私は内心「なんて大人なんだ……!」と驚いていました。

ある先輩が印刷原稿を見て「めくってもめくってもボーイミーツガール、なんだけどお! 君たちもっと工夫とかできないわけえ?」とお手上げみたいなポーズをしていたのを覚えています。面白い人でした。

私に少し変わった意見を伝えてくれた先輩が2人います。

1人の先輩は「なんか、脳内お花畑って感じっすね」と呟いたきり俯いて黙り込んでしまいました。

私はぐさっときましたが、同時に「なんて面白いことを言うんだ! センスがある!」と驚いていました。のちにその言葉がただのネットスラングだと知ってがっかりすることになります。
私は先輩のことが少し苦手になってしまいました。

その後、ある日たまたま何か行事で先輩の隣の席に座ったことがあります。
「ふだん何の勉強してるの?」「おれはこういう専攻なんだけど、卒論のテーマがなかなか決まらなくて……」「甘いものとか好き? おれは最近チョコばかり食べていて……」と色んなことを話しかけてくれて、意外といい人なのかも、話せて良かったな、と思いました。

でも後日同じ先輩がSNSに「足がキレイな人が好きで具体的には白くて細くてこういう感じで~」と詳細に書いていたのを見かけて、やたらと文章力が高いせいでうっかり熟読したところ気持ち悪くなってしまい、また少し苦手になってしまいました。
そんなことで? と今は思うけど若かったから潔癖だったのかも知れない、たぶん……。

先輩は後に突然大学を辞めてしまったのですが、ほとんど話したことがない人なので最初は特に何とも思いませんでした。
でも、後からじわじわと寂しくなってきました。

先輩はみんなの前ではしゃいでいることもあったけど、いつもぐるぐると続く後ろ向きな文章を書いていて実は悩みやすい人なのかなと感じられたのが気がかりでした。

もう1人、忘れられない言葉をくれた先輩がいます。
描写をよく読んで「このへんはリアルに書けていると思う」「昔の悲しいことを思い出す時ってただ涙出ちゃう、ってそれだけじゃないから、もっといろんなどろどろした感情が湧くから、美しく書こうとせず実感の持てる文章を」と伝えてくれたのです。

ここにお名前を書くのは憚られるのですが、現在プロとして活躍されている方です。

先輩がリアルに書けていると言った描写は私が実際に街を歩いて発見したものをそのまま書いた部分です。なぜ分かったんだろう、と内心驚きました。

それ以来、今でも「実感の持てる文章」は私の至上命題となり、常に私をうんうん悩ませています。

先輩は最後に私に向かって「期待しています」と伝えてくれました。
どんな作品に対しても最後にその言葉で締めてくれる優しい先輩が何人かいたので、素質を感じたとかそういうことでは全くないと思います。

でも18歳だった私は「そうか、期待されているのか!」と感動してそれからも作品を書き続けることになります。確か卒業までに6作くらい書きました。

手放しで褒められたことは1度もありません。
最後まで「なんかいまいち」という評価が多かったです。
それでも懲りずに、現在に至るまで創作を続けられているのは、先輩たちがあの頃の私に毎回「期待しています」と言い続けてくれたからではないかなと思ったりしています。














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