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「虹の音色」 第18:決意
「合宿終了です! みなさんお疲れさまでした!」
セミナーハウスの外。それぞれみんなが荷物を持って行方先生の前に立っている。心なしかゼミ生は疲弊している。そんな僕たちの後ろには灰色の小さなバスがある。
「大変な合宿だったと思いますが、おかげでみなさんまた一歩成長できたと思います」
行方先生は笑顔で、明るい声で言う。
本当に大変な合宿だった。何が目一杯遊んじゃってくださいだよ。まともに遊んでないよ。
「電話でも申し上げましたが、来週からが本番です。みなさん、自分のメンタルケアも怠らず、精一杯頑張りましょう」
そうして僕たちはバスに乗り込んだ。
僕の席の隣に霞ヶ浦さんが座る。
「……ああ、眠い」
疲弊した様子で霞ヶ浦さんが呟く。
「疲れてるね」
「うーん、深夜の電話失敗しちゃってさ。そのことで頭がいっぱいであまり眠れなかった」
「失敗しちゃったの?」
「……うん、起きられなかった」
「え、どういうこと?」
霞ヶ浦さんは朝、集合時刻に間に合っていた。なんのことを言っているのだろう。
「すっかり爆睡しちゃって、深夜の電話に出られなかった」
「……そ、そうだったんだ。それは気の毒だね」
よくあんな緊張感のある合宿でそんな爆睡できたものだ。
「どうやら私が電話に出たのは朝5時。それまでに行方先生は10回ほど電話を掛けたみたいです」
霞ヶ浦さんは頭を落とす。
「……それはすごいね」
10回の電話が鳴っても起きない霞ヶ浦さんもすごいが、朝5時まで電話を掛け続けた行方先生がすごい。あの人元気だけど、やっぱり人造人間なんじゃないかな。
「先生もさすがに呆れてたよ。カウンセリング内容も全然頭に入ってこなかったし、もう散々」
「気に病むことはないよ。練習なんだしさ。本番は来週からだって言ってたし」
「まあね! 本番で失敗したわけじゃないからセーフ!」
「あっはは」
霞ヶ浦さんは頭を上げ、笑顔で両腕を横にやる。切り替えすごいな。
「桜川くんはどうだった?」
僕を見つめ、問う。
「僕は、まあまあかな」
「お、その感じは上手くいったみたいだね。さすが桜川くん!」
「霞ヶ浦さんのおかげだよ」
まあ、ロールプレイとしては異例な感じだったけど、相手に寄り添い、緊張をほぐす。きっとこれはできた。これができたのは昼間、霞ヶ浦さんが僕にアドバイスしてくれたからだ。
「そう言ってくれたなら嬉しいな」
霞ヶ浦さんは笑顔で言う。
僕はそれを微笑み返す。
霞ヶ浦さんは僕に手を伸ばしている。声優とボイスカウンセラーの両立の問題は未だ解決していない。まだ、僕は霞ヶ浦さんを救えていない。
問題の解決方法を提示することが僕の役目ではないが、一緒に考えて問題に向き合って救いたい。
僕ならきっとできる。
ちゃんと救ってみせる。
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