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「恋するキューピッド」 第23話:いつかきっと

 教室で歓声が上がり、クラスメイトの連中が騒ぎながら鈴木に駆け寄っている。

 オレはそれをただ茫然と見ていた。

「っ! 空!」

 ついそっちに気を取られてしまっていた。空はどうした!? 壇上に勢いよく目を向ける。しかし、空はすでにもういなくなっていた。

「空!」

 オレは急いで席から立ち上がり、教室を出ようと思った。だが、見逃せない光景があって、オレは立ち止まった。

「……朝比奈」
「うぅ……」

 朝比奈が顔に両手をやり泣いていた。

「……なんでお前が泣いてんだよ」
「……私、最低だ」
「なにが最低なんだよ」
「……私が余計なこと言わなければ、こんなことにならなかった」
「余計なことってなんだ? 相合傘のこと言ってんのか?」

「……それも、ある、けど。それだけじゃ、なくて」

「お前が何言ったかわかんねえけど、お前のせいじゃねえよ。……これは、空と鈴木、涼風の選択だ」

「……わかってる。でも、一番最低なのは……今、私は……ホッとしてる。天使くんが遠くにいっちゃわないことを……ホッとしちゃってる。……私、本当に、最低だ」

 朝比奈は泣きながら、所々つまりながら言葉を紡ぐ。

「……最低なんかじゃねえよ。お前みたいなやつがいるから、空は救われてんだ。……お前も一緒にくるか?」
「……ううん。今の私に、天使くんのそばにいる、資格、ないから。久我くん。行ってあげて」
「ああ。でもな、マジで勘違いすんなよ。お前は絶対に悪くねえからな。自分を卑下するんじゃねえぞ。ぜってー諦めんじゃねえぞ。その強い思いがいつかきっと空を救うことになるんだからな。それを忘れんなよ」
「…………」

 朝比奈は泣き続けたまま、黙り込んでしまう。

「オレ行くからな。またお前と空が笑って話してんの見るの、待ってっかんな」
「…………うぅん」

 微かに返事が聞こえたことを確認し、走り出した。

 空! 空! どうしてひとりでいなくなっちまうんだよ!
 どうしてひとりで抱え込もうとしてんだよ!

「くそっ! あの馬鹿野郎が!」


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