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「恋するキューピッド」 第18話:クソゲー

「……本当に行っちゃった。天使さんが誘ったくせに」

 涼風さんが項垂れてしまう。おれは何と言っていいかわからないが、何か言いたい。

「ほ、ほんと、天使くんのエネルギーはすごいよね」
「鈴木さんもそう思いますか? 天使さんは本当にいつもフルパワーといった感じですごいですよね」

 涼風さんがおれに微笑みを向けてくれる。おれはつい目を逸らしてしまう。

 いや、頑張れおれ! 頑張れ鈴木悟! せっかく涼風さんとふたりきりになれたんだ。
 何か話題を発展させなきゃ。なんだ? どんな会話をすればいい? どんな選択肢がある? 選択肢がない! どうすればいいんだ!

「……その、えと、涼風さんは天使くんと付き合ってるの?」
「え!? いやいやいや! 全然そんなことはないです。ただ最近、仲良くしていただいてるだけです……」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「…………」

 おれの話題の振り方が間違えたのか沈黙になってしまった。

 せっかく、せっかく、ふたりきりになれたんだ。せっかく、休日にこうして会えたんだ。

 な、何かないか!?

――せっかくの高校生活、勇気を振り絞って恋愛してみた方がいいと思うけどなあ。

 ふと、さっき天使くんが言っていたことが頭によぎった。

「あ、あの!」
「……あ、はい。なんですか?」

 つい声が裏返ってしまった。恥ずかしい。でも涼風さんはちゃんと応えてくれた。

 せっかく、せっかく――
 天使くんは言ってくれた。天使くんができることはおれにもできるって。
 だったら、せっかくなんだから――

「…………お、おれ、す、涼風さんのことが、す、好き、なんだけど」
「え」
「…………前から、好き、だったんです。おれと、その、つ、付き合ってください」

 言ってしまった……。終わった。おれ何してんだ……。

「…………」

 おれは格好悪く、目も合わさずに告白したせいで今、涼風さんがどんな表情をしているかわからない。ただ、困らせているってことはわかる。気まずい。何も、言ってくれない。

「…………あ、え、と、ごめん」

 おれは気まずいまま何とか涼風さんの方を向くと、涼風さんはゆっくりと立ち上がり、おれの方を向いた。

「…………ごめんなさい。お付き合いすることはできません」
「あ」

 終わった。まじで終わった。完全に終わった。人生終わった。

 頭の中、世界が真っ白になる。

「……ごめんなさい。まだ、私は鈴木さんのことがどういう人かわからないので」
「…………」
「本当にごめんなさい。帰ります。天使さんには体調不良で帰ったと伝えてください」
「えっ、まっ」

 おれが引き留める前に涼風さんは速やかに支度を整え、卓球広場から出て行ってしまった。

「…………なんだよこれ」

 人生初めての告白、失敗。まじか……。これが失恋か。実感湧かねえ。でも、なんだかもう何かが終わったことだけはわかった。

 天使くんは何度もこれを繰り返してんだよな。まじで正気の沙汰とは思えねえよ。

「……やっぱ、おれには無理じゃねえか。やっぱ、リアルはクソゲーだ」


 おれはベンチに腰掛け、俯いて、そこから何もできなくなってしまった。


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