![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/105873629/rectangle_large_type_2_85943dcd090b2644a30dd1913eea0d35.jpeg?width=800)
「虹の音色」 第28話:思いを繋ぐ
夜が明け、いつの間にか朝9時になっていた。
「……思い、つかない」
ベッドで横になっても頭が働かないため机に向かい、参考書やノートを見返しても答えはない。
カウンセリングに、人を救う方法に答えはないんだ。
「くそ……」
頭が働かなくなってきた。文字を見ても頭に入ってこない。
神栖さんの状況をノートに書きだし、何か解決策がないか考えても、どれも神栖さんを追い詰める方法しかない。ふらふらと立ち上がり、ベッドに倒れる。眠れる気配は一切しない。
いつでも電話に出られるようにしろと行方先生に言われたが、こんな状況で電話に出ても碌に何もできない。
少し、体を休めなきゃ。
寝返りをうち、天井を見て手を伸ばす。
「……届けよ」
手は力尽き、ベッドに落ちる。
そのときだった。
パララランッ。
「っ!?」
勢いよく起き上がり、携帯電話を取り、すぐに通話ボタンを押す。
「神栖さん!」
『…………』
「神栖さん? 神栖さんだよね?」
『…………お久しぶり、ですね』
「っ!?」
純白の声。こんな音。今まで聴いたこと、たったの一度しかない。
結氷した水たまりを歩いているかのような、儚く、今にも壊れてしまいそうな音。
『…………』
電話の先は無言だった。でも、一言聴いただけで誰かわかった。
「……結城、凪砂さん」
『……やはり、覚えていてくれた、んですね』
「だ、」
大丈夫なんですかと尋ねようと思った。でも、あまりの純白な音を汚してしまうことにためらいを覚えた。
『……成長、して、くれましたね』
「あ、あぁ……」
結城凪砂さんだ。僕を救ってくれた恩人だ。今、その人と再び話すことができる。
そして、成長してくれた言ってくれた。
あなたの、おかげなんです。あなたのおかげで、今の僕がいるんです。
あなたのおかげで成長できた。でも、僕は目の前の命を救えなかった。手放してしまった。
『……よく、聴いて、ください』
「…………」
『……あなたなら、できます』
「え」
『……あなた、だから、できます』
「僕だから、できる?」
『……ええ、私の思い、と、一緒に、あなたの、思いを、伝えて、ください』
「思いを、一緒に?」
「……思いを、繋いで、ゆくんです」
「繋いでゆく」
『……彼女なら、それが、できます』
彼女。神栖さんのことを言っているのだろうか。
『……お願い、します。繋いで、ください』
繋ぐ。思いを、繋ぐ。
『……最後に』
「……さ、最後」
『……あなたの、声が、聴けて、よかった』
『……私の、思いを、伝えて、よかった』
『……あなたに、思いを、託して、よかった』
「結城、凪砂さん……」
どうしてか涙があふれてきた。
「僕を救ってくれて、託してくれて、ありがとうございます」
やっと、言えた。
『………』
電話の先は無言だが、微笑んでいるような気がした。
そうして通話は切れた。
そこで携帯電話にショートメッセージが送られてきた。
行方先生からだ。
『凪砂の思いを、繋いでください』
そうか。行方先生が結城凪砂さんに電話をするようにしてくれたのか。
それが行方先生が言っていた、できること。
そうだ。僕は託されたんだ。
そして、今も、託されているんだ。
僕ならできると、言ってくれた。
だから僕のすることは――
思いを繋ぎ、救うことだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?