アパートのドアを破壊して突入せよ
地方公務員 最下級管理職(4)
再び北浦の話に戻りますが、初夏には、ついに、ひどく再飲酒してしまうこととなってしまい、長期間にわたって音信が途絶えました。はっきりとした生存の兆候が見られず、私も不安が増し、毎日の午前と午後にアパートを訪れましたが、電気のメーターもさほど動いておらず、時としてドアに紙片を挟んだり、付箋を貼ったりして、ドアの開閉の兆候を探ろうとしました。それでも、生存の明解な兆候はなく、職員課に相談することとなりました。
職員課は、まず母親と連絡を取れとの指示でした。
隣の区に居住する母親宅を訪れ、連絡を取るようお願いしましたが、顔を両手で覆って泣き崩れてしまい、見るのがつらかったです。
結局、母親からも北浦に連絡はとれず、次に職員課から、その泣き崩れた母親と警察を立ち会わせてアパートのドアを破壊するよう指示がありました。不動産屋へも一旦はその手配をしました。
さすがにその泣き崩れた母親を立ち会わせれば、阿鼻叫喚は当然だし、変死や首つりなどの自殺の可能性も否定できませんでした。阿鼻叫喚も変死体の目撃も可能性はゼロではなく心理的負担が大きく、電話で職員課に突入は勘弁してくれるよう、泣いてお願いして許してもらいました。
入庁後涙声を人に聞かれたのはこれが初めてです。
その後、毎日午前午後にアパート訪問を続けているうちに突如ドアが開き本人が出てきました。およそ1カ月アルコールだけで生きていたそうです。やせ細ってしまい、筋肉もすっかり無くなり歩行もきちんとでるのかできないのかわからないような状態でした。
生存確認ができたのは良かったのですが、職員課からは退職願を書かせろ、現場職員や労働組合からはもう少し面倒を見ろ、の板挟みになりとても苦しかったです。
結局、労働組合本部役員を説得し退職願を書かせました。ただ、心身衰弱状態で書かせた退職願でしたので事後の無効確認訴訟が恐ろしかったです。
北浦は結局初夏に退職しました。(つづく)
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