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戒厳令の晩

地球のため、全人類、夜は戒厳令(2)
 
この戒厳令は戦争と無縁であり、明日の幸せにつながるものだ。
 
みんなで通る戒厳令だから苦しいものではなく、通りようでは楽しくもある。
 
ある夫婦の会話から、人類を助ける戒厳令を知って欲しい。
 
 
「あっ。源ちゃん? お帰りーっ」
「ああ、ただいま。危ないとこだった。一歩間違ってたら、会社でまた泊るとこだった。でも、無事に帰れたから、今晩も充実した晩になりそうだ」
「そうは仰いますが、この間、会社に泊まらされた時、ずいぶんと楽しい思いをしていたように見えましたけど・・・」
「まあそうだな。経済活動の時間が朝6時から夕方6時までだから、すべての公共交通機関も夕方6時には運行どころか、車庫に納めなければならない。だから乗り遅れたんだよ。そこには不満もあったが、その分、みんなで会社に泊まるのも楽しかったさ。合宿みたいでな。いくら会社にいるからといっても、夕方6時から翌朝6時までは経済活動が禁止されているから、前は少ない人数が長時間働かされていたんだが、全世界経済活動の時間が12時間って厳格に規制されたことで、同僚の数も倍に増えたから、そりゃあにぎやかで楽しいもんだったよ」
「・・・」
「会社にいても仕事をさせられるわけではない。しちゃいけないから、気のあった同僚と遊ぶ奴もいるし、ゲームをしたり、生放送じゃないが、一晩中テレビもやっている。日中に貯めたエネルギーの限りで自由だ。無くなったら寝るだけ。あん時だって深雪殿とはネットを使ってずいぶんとゲームを楽しんだじゃん」
「私、騙されているのかしら。この戒厳令、楽しいような気がしてきた。でも、破綻しそうで怖い気もする」
「こわいことなんか何もない。もっともっとと言って、際限なく経済を回し続ける方がよっぽど怖い。1日のうち夜側半分は、経済活動ができないという不自由があるぐらいだ。経済活動が半分になっても、動植物は何の支障もなく育つから、食料まで半分になるわけではない」
「よくよく考えるとそうね」
「これまでの経済は量的に過剰だったのさ。それを半分にするまでの話。質の経済にするのさ。GDPが半分になったからと言って、今も言ったとおり、餓死するわけじゃない。俺たち人類は地球システムからもたらされる物質と機能の恩恵にあずからなければ、それは人類の存在自体が否定されてしまう」
「人間を支えているのは地球っていうことね」
「そうだ。動植物は経済がなくても生きて行かれるが、その動植物(=地球システム)に支えられている人類は、地球システムがおかしくなれば生きて行かれないんだよ」
「地球システムがおかしくなれば、動植物は生きて行かれなくなり、それに支えられている人類も当然に死ぬのね」
「人類を守るための戒厳令なんだよ。治安維持じゃなくて、地球保全のための戒厳令なんだよ」
「半分になっちゃうと、もともと経済規模が小さい国がかわいそうだわ」
「そう考えるのが人情だわな。ひとりあたりのGDPで考えるとわかりやすいよ。とりあえず経済時間が半分になったことで、ひとりあたりGDPが大きな国は、資本も過剰になる。十分に稼げなくなるわけさ。一方で、ひとりあたりGDPの小さい国は、まだまだ成長の余地があるから、先進国で余った資本を移植してやる。投資とは違うよ。移植先で稼いで、移植先に還元するのさ。これで人類の経済的平準もできるんだ」
「地球上の経済的不平等もなくなるのね」
「ああ、これは夢じゃない。絶対にできるんだ。人類は経済的価値を得ること、栄耀栄華することを価値に置いているが、質の経済を体感することで、この間違いにも気づけるようになる」
「もっともっとと言って、いきり立つ必要がなくなるのね。個人同士でいきり立たない。最終的には、国家同士でいきり立たない。そうなれば戦争を支える経済も要らなくなるわね」
「そして、ここで一旦、思い切り地球を休ませてあげることもできる。人類が紡いで造り上げた経済は、人が造ったのに人たる魂を持たない化身なんだ。こいつの言いなりになっていたら地球は破滅する。とりあえず半分にしてやればおとなしくもなるだろう」
「そういえば、私の友だちで夜に仕事をしていた子がいるんだけど、どうしたかなあ」
「夜の経済も全部、分け隔て無く日中に引っ越したよ。社会も寛大になって、日中に酒を飲んでもおとがめ無しさ」
「そうはいっても、日中はお仕事でしょ」
「説教みたいですまんが、これまでの経済は過剰だったんだよ。これをやめて、例えば1970年頃の経済水準でもいいやってことにすれば、この50年の間に限りない技術の進歩があって人手が要らなくなった。つまり、みんな週休3日以上容易くできちゃうわけで、休みの日に朝から夕方まで飲めちゃうのさ」(22/4/17)

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