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短編小説「プレミアの罠」


初代iPhoneが2600万円で落札されたというニュースを見た。

発売後2ヶ月で販売中止になったため、プレミアがついたという。

投資目的で保有するのも悪くないな。

現在売られているもので、後に価値が付くものはないかとネットで調べてみる。

ネットで調べてみるとプレミア商品をなんでも買い取るという珍しいショップがあるみたいだ。気になったので早速行ってみることにした。

店名は「パラコッタ」。オフィスビルが立ち並ぶ街の一角にあるみたいだ。

パラコッタはオフィスビルに属しており、ビル一階の看板にはプレミア商品なんでも買い取りますという看板がある。

6階にあるショップへとエレベーターで向かう。

店に入ると、薄い青みがかったサングラスをした男性が出迎えてくれた。

「あの、すいません、プレミア商品をなんでも買い取ってくれると聞いて来たんですが。」

「いらっしゃいませ。買取ですね。プレミア商品に関する説明をさせて頂きますのでこちらにお掛けください」

そう言うと、彼は来客用のカウンター席へ案内してくれた。

「うちの会社は、他の買取業者と違い、お客様がプレミアだと感じるものを全て買い取らせて頂きます。ニュースなどで初代iPhoneが高値で落札されたということが話題になっておりますが、そのような本当のプレミアではなくても良いということになります。」

「あ、はい。」

言葉ではそう返事したものの、あまりピンとこなかった。
とりあえず、プレミアがつきそうな某キャラクターのレアカードを持ってきていたのでそれを提示した。

「レアカードですね。一万円で買い取らせていただきます。」

「ありがとうございます。」

昔遊んだポケモンカードを売っただけで一万円がもらえたからとても気分が良かった。

満足感を感じ、そろそろ帰ろうとしたその時だった。

店内に、ジャージ姿で髪の毛がボサボサの男性が入ってきた。
その人が真横を通ると、酒臭い匂いがした。

手には大きな袋を持っている。
この人も何か売りにきたのだろう。

何を売りにきたのだろうかと興味本位でその人を目で追っていた。

そして、その人が店員に提示したものには驚かされた。

カップラーメンの空、使い終わったティッシュなど、素材ゴミを持ち込んでいるのだ。

ここは、ごみ収集所でもリサイクルショップでもない。
プレミア商品の買取ショップである。

変わったお客さんもいて、店員さんも大変だなと同情的な気持ちになる。

ところが、店員さんは顔色を変えることなく、お客さんが持ち込んだ素材ゴミを査定し、一万円を渡しているではないか。

一体どういうことだ。自分が売ったカードと、おじさんが売った素材ゴミが同等の価値ということなのか?

そういえば、店員さんは来店時の説明で妙なことを言っていたな。

「お客様がプレミアだと感じるものを全て買い取らせて頂きます。」と。

この店の趣旨をようやく理解した

希少価値がある初代iPhoneにプレミアが付くなら、同じように、個人が保有するゴミもたった一つの価値あるものとしてプレミアが付くという考えのようだ。

かなりぶっとんでいる。

しかし、こんなにうまい話はない。

早速、家に帰って世界に一つしかない物を探した。

壊れた掛け時計、空になったビール缶、空になった歯磨き粉、書き損じた手紙など。どれもガラクタやゴミである。

そして、次の日それらをプレミア買取ショップに持ち込んだ。

店員さんの査定を受け、買取価格が発表された。

「買取価格は合計で3万円になります。」

この瞬間、僕は初めてこの世界の攻略法を見つけることができたと、舞い上がる気持ちを抑えきれなかった。

自分が出すゴミやガラクタは、ある意味、世界に一つだけのものであり、オンリーワンのものとして価値がつけられる。

その日から、ゴミをゴミ収集所に持っていく代わりに、プレミア買取ショップに持っていくことが日課になった。

こういう経緯があり、今では家はゴミやガラクタで溢れかえっている。

傍から見れば、近所迷惑のゴミ屋敷に見えるだろう。

しかし、プレミア買取ショップは、これに価値をつけてくれる。

おかげさまで今では、高級車が買えるぐらいお金が貯まっている。

そんな財布が潤い始めた頃、家のインターフォンが鳴らされた。

出ると、訪問営業でギャンブルを勧めてくるいかにも怪しい人だった。

いつもなら、インターフォン越しに断り、門前払いをしていたが、お金が永遠に生み出せるという保証がある今、営業話に付き合ってやろうという気持ちになった。

玄関へ出て話を聞くと、ギャンブル会場では一攫千金のチャンスがあるという。ゲームで勝つと、賭けたお金の3倍のお金が手に入るというのだ。

自分が出したゴミがお金になる今、お金に困ることはないと確信していた。

そのため、その人からギャンブル会場へのチケットを入手し、後日ギャンブルへと行ってみることにした。

ギャンブル会場は、まるで遊園地のようなカラフルな塗装がほどこされ、お金を賭ける場としては違和感のある会場だった。

会場に着くと、ギャンブルの説明を受けた。

「ギャンブルで賭けることができるお金は、5000万円からです。勝てば、掛け金が3倍に。負ければ、賭け金の3倍のお金を没収させて頂きます。もし負けた場合、返済することが義務になりますので、よく考えた上でゲームにご参加ください。」

なんともうさんくさい。
リスクしかないようなゲームである。

しかし、この説明を聞いても決断は揺るがなかった。

お金は無限に手に入る。

だから、ゲームに参加する。

そして、ディーラーからゲームの説明を受け、ゲームを進めた。

ゲーム結果は、、、。

やはり、あっけなく負けた。

掛け金の5000万を失い、1億5000万の返済が決定した。
返済のために、車と家が担保として差し押さえられた。
ギャンブル会社のお金に対する執着は凄まじい。

しかし、何も怖いことはなかった。
なぜなら、ゴミがある限りプレミア買取ショップでお金を生み出すことができるのだから。

次の日、ギャンブル返済のお金を貯めるため、プレミア買取ショップに向かった。

いつも通り、オフィスビルが立ち並ぶ街の一角にあるビルに行き、エレベーターで6階へと向かう。

店内に入ろうとするが、営業時間であるはずなのにドアはを押しても手応えがない。

あれ、開かない。降りる階を間違えたのかと、確認するが間違いなくプレミアショップがある6階である。

焦る気持ちを抑えながら、一階のエントランスへと行き、受付の人へ6階のプレミアショップはどうなったのかと尋ねた。

「プレミア買取ショップですか?つい先日移転したみたいですね。住所までは教えてくれませんでしたが。」

やられた。

あとあと、プレミア買取ショップの噂を聞いた。

この会社は「お客様がプレミアだと感じるものを全て買い取らせて頂きます」という謳い文句でお客さんにお金を与え、経済的に潤わせた上で、ギャンブルの話を持ちかけ、買取額以上の儲けをする闇会社だという。

つまり、プレミア買い取り業者とギャンブル業者は裏で繋がっていたのだ。

家に帰ると、部屋は大量のゴミで溢れかえり、家の外まで出ているほどである。

異臭が漂い、ハエもわいている。

ゴミに価値がつけられ、お金が無限に貯まるという夢のような話は、やはり夢でしかなかった。


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