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施工者から仕事をもらう設計者の問題点3選

田舎の建築設計事務所に勤務している設計士の戯言でございます。

事務所や店舗などの一般建築に限らず、住宅の設計の仕事って、必ずしも建物のオーナーさんから直接ご依頼いただくとは限らないんですよね。
よくあるのが、設計事務所としてお付き合いのある建設会社や工務店からの依頼。
「うちに住宅の依頼があって、ちょっとプラン考えてほしいんですが」なんて具合です。

こういった「施工者からの紹介案件」について、「むむむ」と思うことがあったので、自戒を込めてメモがわりにnoteを使わせていただきます。

言葉の定義
・設計者…お客さんと打合わせをして建物のプランを考え、図面を描く人。
・施工者…図面を元に資材と人員を調達し、実際に建物を作る人。
・工事監理…現場が図面通りにできているか、設計者がチェックすること。
      (現場監督さんの「現場管理」とは違います)


「施工者からの紹介案件」の問題点3選


(1)やるべきことができない

「いや、設計のプロならやるべきことちゃんとやれよ」という声が聞こえてきそうですが、物理的に無理なんです。

理由1:設計料が安すぎる。なぜ安いかって。代表的なところでは、施工者が設計の重要性を理解していない、大量発注により1件あたりの外注費を抑えている(仕事いっぱいあげるから安くしてよね?っていうやつです)ってなところ。

理由2:時間がなさすぎる。これには理由が2つある。
1つ目は施工者側の要因。そもそも施工者が提示する設計期間が短い。これもつまるところ施工者が設計の重要性を理解していない(「ちょっと間取り描いてよ」ってなくらいにしか設計というものを認識していない大工上がりの建設会社や工務店のおっちゃん社長が日本にはまだまだ多い)。
2つ目は設計者側の要因で、1件あたりの設計料が安ければ、その分たくさんの仕事をこなす必要があるから、本来必要となる時間を費やすことができない(要するに、設計者も「住宅設計はコスパ悪い仕事」と思ってる人が多くて、だったら質より量でカバーやで〜、なんて考えに至る)。「住宅だけで食っていくのは大変だよ〜」というセリフは、住宅設計者としての独立話を切り出した若手30代建築士が上司から必ず言われる、有資格者を会社に引き止めるための常套句なのであ〜る。

脱線しましたが、これによりどんな不都合が起こるかというと、

基本設計段階:お客さんとのコミュニケーション時間が減る本当にお客さんが求めていることや意図(真意)を汲み取ることが難しくなる。最低限の構造設計や省エネ計算はできたとしても、お客さんに寄り添った「暮らし」自体の設計がおろそかになる。最高級の皿とナイフとフォークを使ってコンビニ弁当食べるようなもんですよ。

実施設計段階:作成する図面枚数が減る。最悪な場合、法的な申請を通すのに必要な図面だけしかつくらない、なんて事態に陥る(この場合、実施図面なんてものは存在しないに等しい)。施工者も安い金でやってもらっているから文句は言いづらい。むしろ設計ってこんなもんで、現場は自分らで決めながらなんとか納めるべきもの、と思っている節がある。そうするといろんなヘンテコリンなことが起こったりする。だって考えてみてくださいよ、施工屋さんは施工のプロだけど、設計のプロじゃないんだから。それこそ昔の家づくりと言えば棟梁(大工さんのリーダー)が設計から施工から全部請け負ってやってたときもあったけど、それも江戸時代までの話で、明治になって建築家という地位が確立されてからというもの、日本という先進国においては完全な分業制が成立している。餅は餅屋。
こういう話すると、「自社設計施工のハウスメーカーや工務店がやっぱり一番!」って言いたい人が出てきそうだけど、そう一概にも言えないのがこの業界の闇の深いところ。(この話はまた改めて別の回にでもしよう)

そんなこんなでまとめると、設計にも必要十分な「金と時間」が必要ということ。シンプルな問題だけど、現実はだいぶ蔑ろにされてる。日本人はモノの値上がりには素直に理解を示すのに、人件費や手間賃には本当に無頓着だなと思う。

住宅設計の「コスパ」とは。

(2)立ち位置がふわふわする

施工者の依頼で設計業務をするときの設計者は、「設計者ではない」ことがままある。え?ナニイッテルノ?と思われた方に解説すると、「実際には頭からケツまで設計業務を行うけど、設計者として名前は表に出てこない」ということ。つまり名目上は施工者が「設計監理・施工」を行い、実際の設計者は「設計協力者」となる。なんでわざわざこんな面倒なことになるの?と聞かれると、まぁ理由は色々あるのだが、建築士事務所登録をしている施工会社が「自社の設計施工です!」と宣伝したい、面倒な工事監理を省略したい(自社で行いたい)、あたりが主な理由でしょうか。(全てがそうとは限りませんので悪しからず)

これの問題点。なんだか設計者と施工者の役割分担がふわっとしてきちゃって、お客さんとの打ち合わせなんかも、設計者が考えた渾身のプランを握りしめて施工会社の営業さんがお客さんに説明しにいく、なんていうリアル伝言ゲームみたいなことになったりする(ことがある)。施工会社としても「自社設計」の名目があるから、そうせざるを得ないみたいなところがあるみたい。そうすると1回で済んだはずのやりとりが2回、3回と増え、加えて設計にかけられる時間が決まってるから「もうこれでいきましょう」とか、「今回の話はナシになっちゃいました。スイヤセン。他にも仕事紹介しますンで」なんて話になる。これは本来のモノづくり(コトづくり)の流れでは決してないですよね。

誰がお客さんと打合せするべきか?

(3)施工者の都合が介入する

お客さんの都合とは無関係な施工者の都合が挟まると、なにかしら良くないことが起こる。「うちは木造オンリーでやらせてもらってますんで」とか、逆に「木造だと単価悪いから、鉄骨かコンクリート造でいけませんかね?」とか。あとは「建て替えになると競業他社が有利になっちゃうから、なんとかフルリノベで提案してください」とか。こういった事情はお客さんには無関係で、設計者としてはお客さんと腹割って話して、建物を作る目的が何かをはっきりさせて、何が最善か考えて、あくまでその結果として工法や新築・リノベなどの「手段」が決まるわけで、「手段」ありきで考えること自体が間違いのような気がするというか、健全ではないような気がするというか。


結局は設計者の問題

本来あるべき「順序」に立ち返る

さんざん施工会社の不満をぶちまけてきたようではありますが、結局はタイトルにもあるように「仕事をくれるありがたい施工会社様」に頭を下げている現状に甘んじている設計者の問題なのかなと。確かに事務所員や家族を養うために、どんな形であれ仕事をもらうことはありがたいと思うのかもしれないけど、設計者も施工者もお客さんも、みんな「いい建物をつくりたい」と思っているはず。その実現に大事なことは、適切な役割分担と、踏むべき各ステップにかける時間と順番と、信頼関係(と報酬)なのかな、と。そしてこれはもちろん設計者の「暮らしを読み解く確かな設計力」がないとなかなか難しいことで、やはり住宅設計だけで食っていくのが大変なのは間違いなさそうであ〜る。

ちなみに、ハウスメーカーや工務店とは一線を画す「施工者と組織を異とする設計士」に住宅設計を依頼するメリットや、依頼すべき人、すべきでない人についてはまた別の回で書き記せたら、と思います。

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