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【ショートショート】毒の花が咲くとき

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

陽子はカフェの隅っこで、涙を拭っていた。

窓の外の雨は止む気配もなく、彼女の心を反映するように冷たく降り続けていた。

恋人に振られたばかりで、心が折れていた陽子の目に、玄関先に置かれた赤いバラの花束が映った。

「人生にもっと毒を」と書かれたカードが添えられている。

「何なの、これ?」

陽子は戸惑いながらもバラを手に取った。

その瞬間、彼女の内面で何かが弾けた。

大胆になった陽子は次々と新しい恋に挑戦し、夜の街での彼女はまるで別人のようだった。

親友の玲奈は心配そうに尋ねた。

「本当の陽子はどこに行っちゃったの?」

しかし陽子はただ笑って答えるだけ。

そんなある日、図書館で俊也というクールな男性と出会う。

彼は陽子の変化を鋭く見抜いていた。

「そのバラ、特別なものだね」と俊也が静かに言うと、陽子はぎくりとした。

ある日、俊也の部屋に招かれた陽子は、そこで目を疑うような光景に出くわす。

部屋の一角に、見覚えのある赤いバラの花束が幾つも並んでいたのだ。

「なんでここに……?」

陽子の声が震える。

俊也は静かに微笑んだ。

「君が受け取ったのと同じだよ。僕が用意したんだ」

彼の言葉に陽子の血の気が引く。

俊也が赤いバラを仕掛けた張本人だったのだ。

「本当の毒は、心の中にあるんだよ」と俊也は微笑む。

その言葉に、陽子は自分の心の変化を悟り、冷静さを取り戻そうと決意をする。

そして再び歩き始めた。

その後、陽子は知ることになる。

そのバラに触れた者は皆、少しずつ冷酷な人間になるということを。

そして最後に陽子はぽつりと呟く。

「俊也、自分の毒に気づいているのかな?」

俊也の微笑みを思い出し、陽子は不気味な笑みを浮かべた。

彼の毒もまた、彼自身を蝕んでいるのだと。

最後まで読んで頂きありがとうございました。


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