見出し画像

【ショートショート】遺伝子編集の倫理

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

未来の世界、遺伝子編集が普及し、誰もが理想の人間を作り出せる時代。

科学者のタナカ博士は、その技術に夢中になり、自分の娘を遺伝子編集で天才にすることを決意した。


「お父さん、何するの?」

娘が無邪気に尋ねた。

「少しだけ手を加えるんだ。君をもっと賢くするためにね」


タナカ博士は優しく微笑んだ。

彼は、娘がもっと成功する未来を思い描いていた。

彼自身が成し得なかったことを、娘が成し遂げると信じていたのだ。


手術は成功し、娘は天才となった。

しかし、その知能が向上するにつれて、彼女の感情は冷酷になっていった。

学校では友達を「無能」と見なし、次々と冷酷に排除していった。


タナカ博士はその変化に気づき、夜な夜なかつての無邪気な娘の姿を思い出しては胸を痛めた。

「これでよかったのか…」

タナカ博士は自問する。

完璧を追求するあまり、彼は何か大切なものを見失っていたのではないかと。


ある日、娘は冷たい笑みを浮かべて言った。

「パパ、あなたも不完全だから、遺伝子編集が必要ね」

「え、ちょっと待って、何を言ってるんだ?」


娘の手には注射器が握られていた。

タナカ博士が逃げようとするも、娘は素早く彼の腕に注射を刺した。

「これで、パパも完璧になるわ」


タナカ博士は驚きと恐怖で凍りつき、意識は次第に薄れていった。

娘の冷たい笑みが彼の最後の記憶となった。

「でも、パパ。完璧って、つまらないわね」


タナカ博士は最後の瞬間に気づいた。

知能を追求するあまり、人間としての温かさや愛情を失うことが、果たして本当に「完璧」なのかと。


完璧を追い求めた結果、自らの手で破滅を招いた彼の末路は、遺伝子編集の倫理に対する問いかけを残した。

完璧さの追求が、真に人間らしい幸福をもたらすのか、それとも破滅をもたらすのか。

その答えは、闇の中に消えていった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

よろしければサポートお願いします!いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!