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そして英雄になる

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英雄を目指したラムとウィルの剣と魔法があるライトなファンタジー物語。
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#小説

2章10話 考古学者ウィリス

眩しい光に包まれていたのを今でも覚えている。
父のように力強く、母のように優しげな声を覚えている。
帝国魔術師の魔導老公と死霊魔術によって操られたアウリクスに殺されたのを覚えている。

肉の一片も残らず消し飛んだはずの俺は森を彷徨っていた。
この森はアウリクスと戦った森じゃない、ラムと一緒に過ごした山の麓だった。
自分が何故この山にいるのか分からないが俺は秘密基地に行かなくちゃ行けないと感じていた

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2章1話 オーフェン

 帝国が大陸全土に向けて宣戦布告を行ってから5年。
帝国は公国を侵略した後にいくつもの小国群を占領して更なる軍拡と戦争を行っていた。
 これに対して5大国の内の、北国アインドラ、共和国エスペンサ、南国グリムは同盟を結んで連合軍を作り帝国に対する共同戦線を張ることによって強大な帝国に対して攻勢を試みていた。

 そんな世界情勢の中で1人の少年の物語が運命と交わろうとしていた。
ここは沈黙を貫き続ける

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19話 紅蓮の勇者

 幼き日のことだ。私はただひたすらに剣の修行に打ち込み、教養を身につけ、礼儀作法を必死に学んだ。

 それは国への忠誠心でもなんでもない。
ただ父に、母に、褒めてほしかった。認めてほしかった。
ちゃんと愛されているのだと知りたかった。
 私は17の時に王の御前試合でもある皇族護衛役を選定する試合に出場した。
教養と家柄、礼儀作法は全て合格し、後は剣術の腕を皇族の方々にお見せする試合に優勝するだけだ

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6話キャラバン

 辺境伯領の領都マーズは豊かな草原や森からくる資源に恵まれ、木材や植物の実が特産品である。
また、異国の物が公国に入る際に必ず通る公国の搬入口とも言われるほどの国境付近では最大の都市であり、隣国から流れてくる物や人を陰ながら調べ監視する国軍が少なからず派遣されている街でもある。
そんな大都市、領都マーズにはキャラバンが到着しており、更なる賑わいを見せていた。

これはその裏で起こっていた話である。

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5.英雄たりえる力

 泥に覆われた岩山で、ウィルと『沼男』は対峙していた。

 無くなった手首を抑えながら『沼男』が赤い眼を揺らして天に向かって怒り叫ぶ。
その叫びは草原中に響き渡るほどの大声量だった。
叫びに呼応するかのように、夜空は瞬く間に暗雲に覆われ、ぽつぽつと雨が降り始め、気づけば周辺地域は暴風雨に晒されていた。

ウィルは背に括り付けていた槍の二本ある内の一本を地面に突き刺し、もう一本を片手に持ち『沼男』に

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4.沼男

 僕はもうすっかり夜になった草原を駆けていた。

草原には久しぶりにきたけれど、酷い有様だった。
青々としていたはずの大地は泥と肉塊と血に染まった赤黒い世界になっていた。

そこら中に原型を留めていないぐちゃぐちゃになった肉塊が転がっている、よく観察すると牙狼の死骸であることが分かった。
死骸は牙狼だけに限った訳じゃない、大鹿や小さな獣達も全部ぐちゃぐちゃだ。

そんな有様の中で点々と綺麗な牙狼の

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3.才能

うーん、よく寝たなあ……。
夕飯を食べずに寝ちゃったから起きた時からお腹が空いて仕方がないや。

 そう、朝日が出る前に目が覚めちゃってお腹を空かせている僕の名前はラム!13歳だ!いつか幼馴染のウィルと一緒に英雄になる!……はずだ。

英雄…なれるかなあ……先日大熊に吹き飛ばされたばっかりだけど……。
でもウィルはやっぱり凄いよね!
あんなに大きな熊を前にしても一歩も引かないで、簡単に倒しちゃった

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2.俺の名前はウィル!

 俺はウィル!ラムと一緒にこの公国で英雄アウリクスの様に最強で最高の英雄になる男だ!!!

 大熊には正直焦ったぜ!
一瞬ラムが死んじまうかと思ったがなんとかなってホッとしてる。
ラムはラムが思ってるよりもずっと強いし、才能もある。
誰よりも真面目で直向きに努力できるラムだったから、あのとき大熊と打ち合ってもなんとかなったんだろうな〜、なんて。

ラムを家に預けた俺は自分の家に親父がいるか確認して

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始まり

始まり

 僕はラム、12歳だ!
辺境伯の領地にある農村に生まれた。
どこにでもいるだろう平凡な農夫の息子だ。
今日、僕は幼馴染のウィルと山に遊びにきていた。

「待ってよー!ウィルー!」

「秘密の場所まで競争だぞ!早くついてこいよ〜、ラム!」

幼馴染のウィルは村の狩人の息子だ。
同い年の筈なのに背丈は頭二つ分くらい高いし体格も大きい、村の大人達にも負けないくらいだ。
ここらの森では手に入らない特殊な堅

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