エッセイ#55『千葉ポートタワーの夢』

 自分が実際に見た夢をまとめた『ほんとにあった夢十夜』という文章を何本か綴ってきたが、つい先日、その仲間に入れる程でもない夢を見た。
 夢の舞台は千葉市のランドマーク「千葉ポートタワー」である。千葉県の人口500万人突破を記念して建てられたタワーで、なんと大人は420円で上れてしまうらしい。良心的だ。
 その名前の通り海のすぐ側にあるのだが、夢の中では本当にギリギリ海に届くか届かないかくらいの場所に建っており、きっと潮の満ち引きとか風の強さによっては、完全に海水に浸かってしまうだろう。
 そんなポートタワーを私は夜に見上げているのだが、全くもって綺麗ではない。本来ならば、タワーの麓の広場や京葉工業地域の煌びやかな夜景が目に飛び込んでくるはずだが、私の夢には何故かそれがない。それどころか、辺りを山々に囲まれている。平均標高45mと、全国で最も平べったい千葉県にはあってはならない高さの山が、ポートタワーの背後の聳えている。
 よく見ると、海も私がよく知っている海ではない。上手く説明は出来ないが、誰がどう見てもこれは海ではなく湖だ。それに暗くてよく見えないが、足元もどうやら地面ではなさそうだ。砂浜でもコンクリートでもなく、水に浮いた「何か」の上に立っており、少しでもバランスを崩したならば、落水待ったなしだろう。

 起承転結が全くないまま、この夢は終了した。私以外に登場人物はおらず、人の声や車の音などはおろか、目の前にあるはずの波の音すら聞こえない。何とも不気味な夢であった。さらに周囲に建物がなく、高い山があることからも、ここが千葉県のどこでもないことがほぼ確実であると言える。にもかかわらず、この塔が千葉ポートタワーであることは理解できた。何故だろう。
 もしかしたら、途中で目が覚めてしまっただけで続きがあったのかもしれない。タワーが点灯したり、船が通ったりしたのかもしれない。ただ、どちらにせよ夢の中の私はその場から動けないので、何かアクションを起こすことは出来ない。この夢の正解は何だったのだろう。

『ほんとにあった夢十夜①』(オリエンタルラジオの夢)

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