エッセイ#50『日本語検定』

 高校の帰り道、電車の中で外国人に話し掛けられた。電車の中で話し掛けられるといえば友人か教員くらいだが、この外国人には全く見覚えがない。見る限り観光中という感じでもないので、道に迷っているわけではないのだろう。
 咄嗟に「はい!?」と答えると、彼はマーカーが沢山引かれた問題集を手に持ちながら、深刻そうな顔で「これわからない……。」と相談をしてきた。どうやら日本語検定の過去問か何かを解いているらしく、穴埋め問題がわからずに困っているらしい。
 何だそんなことか、日本語話者歴17年の私からしてみれば容易い御用だ。「見せてください。」と言って問題を覗くと、空欄に助詞を当てはめる4択問題だった。

お茶はまだ残っているが、水( )空になった。
①が ②は ③も ④に

 細部までは覚えていないが、確かこんな感じの問題だった。しかし私は何故か焦ってしまい、「①です!①です!」と間違った答えを教えてしまった。
 すると外国人氏はいぶかしげな顔で「う~ん……。」と唸っていたので、私はようやく間違えに気付き、「あー!違う違う。③です③です。ん?違うか②です!」と慌てふためきながら答えた。
 外国人氏は「ありがとうございます。」と笑顔でお礼を言ってくれたが、私はしばらく心臓の鼓動が落ち着かなかった。瞬時に答えられなかった格好悪さに、周囲の乗客からの「何でわからないんだ。」みたいな視線も相まって、日本語が出来ない若者みたいになってしまったことを自分で悔やんだ。
 その時、丁度最寄りの駅に着いたから良かったが、その車輌にそのまま乗り続けられる自信はなかった。


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