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#12『献血準備失敗』

 駅前で緑のベストを着用した老人達が、スーツを着た若い女性を取り囲むようにして立っていた。一体、何事か。
 真相はすぐにわかった。どうやら、何かを配るために招集された人々らしい。緑の集団は駅前に散らばるや否や、道行く人達に何かしらを差し出していた。しかし誰も受け取ろうとしないため、何を配っているのかは謎に包まれている。そうは言っても、道端で配るものといったら、普通はティッシュかビラである。あと、たまに消しゴムとかカイロとか冷えピタとか。
 丁度その時、下校中の小学生の集団が駅の方へとやって来た。これはチャンスとばかりに、緑達は何かしらを小学生に渡し始めた。これを受け取らない小学生を私は知らない。きっとそんな子は存在しないのだろう。
 小学生達が受け取ってくれたお陰で、ようやく「何か」の正体がわかった。ビラとティッシュの両方であった。この場合のティッシュの意味は何なのだろう。

 某ハンバーガーショップで、ラジオを聴きつつ本を読みつつ食事をしていた。味覚と聴覚と視覚でバラバラのものを感じているが、身体には何の支障もない。
 左耳のイヤフォンが壊れているので、実際にラジオを聴いているのは右耳だけであえる。目では本を読み、口ではカフェラテを啜り、右耳ではアイドルの声を聴き、左耳ではご婦人達の会話を聞いていた(勝手に入ってきた)。
 右耳ではアイドルがライブの感想を述べる中、左耳ではご婦人達は「運送業者に頼むよりも、私に任せたほうが安価で済む。」というセールストークを繰り広げていた。また、右耳でメンバー同士での微笑ましい思い出を話している時、左耳では「〇〇さんは、口を開けば悪口しか言わない。」という悪口を言っていた。そして、右の放送が終了した瞬間、両耳がご婦人になってしまった。
 ここで私は店を後にした。

 帰宅して、スマホを開く。
 ネットニュースの「太田光 入籍」の文字に驚く。

 昨日の朝、教授にメールを送った。30時間以上が経過したのにもかかわらず、一向に返信が来ない。
 G-mailにも既読の機能があっても良いと思う。
 明日、大学のではない自分のメールアドレスで再チャレンジすることにする。
 お願いだから気付いてください。その結果を別の人に報告しなきゃいけないんです。お願いです。念のためゴミ箱も見てください。

 血液型を知るために、献血の予約をする。私の空き時間と献血ルームの空き時間が合わず、来週までのおあずけとなってしまった。献血を日常的にしている人は、自分が思っているよりも多いようだ。
 血液型が判明するのは、楽しみであり寂しくもある。不便なことがなくなる一方で、書類に「不明」という格好良い2文字を書くこともなくなってしまう。

 明日のアルバイトが休みになったようだ。嬉しい連絡である。
 ということは献血にも行ける。しかし既に献血ルームの受付時間は過ぎてしまっていた。ついているような、ついていないような。

 そんな1日だった。


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