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なぜ良いM&A案件が我が社には紹介されないのか?②

前回の記事では、M&A案件がたくさん集まる5つのポイントのうち2つを紹介した。

本日は残る3つを紹介したい。

③検討から外れた場合は、理由を素早く、明確にフィードバックする
④最初から手数料交渉をしない
⑤個社別にシナジーを考える

いずれも、たくさん買収を重ねている方からすると「基本動作」と一蹴される要素かもしれない。

しかし、徹底できている方はかなり少ないと思う。

「安く買って高く売るプロ」であるプライベートエクイティファンドの方などは、この5つの基本動作の徹底度合いは高い。

彼らは、高値掴みを嫌がる。当然、ビット・競合入札も避けたい。できれば、直接・一対一で話をしたがる。株価目線第一にならないこともある「事業承継」だと尚好む。

「安く買うプロ」であるファンドはお作法がうまい。これらを実現すべく血眼である。基本動作徹底は当たり前としてとにかくもてなすのが上手である。

私も自身で買収する立場になれば、ファンドの方の姿勢に習いたいと思う。

さて、③について紹介する。

「検討から外れた場合は、理由を素早く、明確にフィードバックする」
この項目は、タイトル通りである。

何よりも早くイエス・ノーを出した方が、案件持ち込み者には喜ばれる。また、検討するにしても、明確に〇日まで検討すると返すのが望ましい。

ビジネスと一緒で、「無期限に検討する」というのはゼロ回答と同じである。

通常の商材のように、立場が強く営業を受ける立場であれば、不要だろう。しかし、M&Aであれば、よほど悪い案件出ない限り、すぐに複数の買い手がつく売り手市場である。

大手仲介には、大体売り手に対して、15~20倍の買い手情報が登録されている。売り手1社に対し20社買い手が存在する。

となると、ぐずぐず検討する買い手に対して、ゆっくりと付き合う必要はないのだ。

スピード感をもって、レスポンスしないと、おいて行かれるのだ。

仮にNOであったとしても、明確にNOな理由を提示してくれる買い手には誠実さを感じるし、「また次も案件を持っていこう」となる。こうしたコミュニケーションの積み重ねが重要である。

次に④最初から手数料交渉をしない、について説明する。

昨今では、仲介手数料の高さに辟易して、「買い手フィーは払わない。」「売り手からもらうから不要だろう。」と強気の買い手も多い。

とくにPEファンドやIB出身者のCFOがいる買い手に多いように思う。

(そうした高飛車な買い手企業はその後、IRをみても、あまり買収ができていないように感じる。)

手数料交渉をするのは、ビット状況を確認してから行うことをおススメする。

他に買い手がいなくて、M&A担当が泣きついてきている状況なのか見極めてからでも、減額交渉は遅くない。

交渉巧者は、この見極めが優れている。

ビットしている良案件については、手数料を多く支払い、「叩ける案件」については、手数料を絞る。

この調整がうまいのだ。

もちろん昨今、経済産業省が推進しているM&Aガイドラインにおいては、特定の買い手企業から手数料を多くとることをヨシとしていない。なので、手数料を多く積むから自社を優遇してほしい、というのは通用しない。

また、そうした行儀が悪い提案をしてくる企業はどこか私は信用できない。

ここで伝えたいのは、そうした交渉の「良しあし」ではなく、状況を見極めてから動くべきという点である。

手数料はとにかく拒否、ではなく、交渉できる環境下にあるのかをまずは見極めるべきだ。

その上で、交渉を行うかは慎重に検討すべきである。

相手の足元をみて、条件を変えるのは長期的にみてデメリットも存在する。嫌らしい交渉ばかりする買い手企業には、案件を持っていきたくなくなるのが人間である。

一方、たとえば「赤字の承継案件で、買収後どうしても一定の投資が必要になるので、なんとか手数料を抑えたい」などであれば、理解は得られやすいと思う。

仲介会社も、成約しなければ、1円も入らないので、「この会社が降りたらもう買い手が存在しない」という条件になれば、折れることも多いにあり得る。

出会いがしら的に「手数料を払わない」と振りかざすのはお勧めしない。合理的に、したたかに交渉を進めるべきであると私は思う。

最後に、⑤個社別にシナジーを考えるについて紹介したい。

こちらもその名の通りである。1社1社個別に売り手のメリットを考えるべきである。

競合入札であれば、お金以外のメリットも提案すべきなので、当然である。が、一対一で検討いただける場合も同様である。

「この会社にグループインしたらどんなメリットがあるのか?」も提示すべきである。

当然、TOP面談までいけばその準備はするだろう。大事なのは、初期段階でそうしたメリットを提示することである。

「アクティブサーチ」などで、売り手を口説く段階でも大事だし、IMを検討している段階でも大事だ。

売り手オーナーの代弁者であるM&A仲介担当に対して、「我が社なら〇〇のメリットが提示できる可能性がある」と毎回伝えないといけない。

姿勢が大事なのだ。

「この人はいつも売り手に寄り添ってくれる」というスタンスを示さないといけない。

「なんでそんな当たり前のことを・・・」と思う方もいるかもしれない。

しかし、出来ている方が本当に少ないのだ。

先日、「婚活が難しい」という話題を面白おかしく揶揄するショートムービーをみた。

40代の男性が、「あなたと結婚するメリットはなんですか?」と真顔で、女性に聞いていた。女性は、「甘えられます~」と答えていた。(こう答えられる女性も強い。)

男性はそれで?という困惑した表情であったが、男性が今後も婚活に苦戦するであろう事は容易に想像できた。

M&Aは結婚に例えられることが多い。

まずは相手に提供できるものがなにか?で考えるべきである。相手の心情を踏まえたアプローチがとても重要というお話をさせていただいた。

最後に、、、

私は、プライム上場企業の買収支援やM&A戦略立案をさせていただくことも多々ある。

「上層部が石橋を叩いて渡るタイプで話が進まない」というお悩みをたくさん聞く。

そのため、私が記載したポイントを「話は分かるが難しい」とおっしゃる方もいるかもしれない。

結局は組織の方針に左右される面もあるだろう。

しかし、「理解がないからあきらめる」のではなく、「上層部に理解がないからこそどう推進させるか」の観点で動くべきだと私は思う。

事実、買収をうまく進めているご担当の方はそうしている。

現実的には上層部次第で、最後まで進まない実態はあるだろう。
ただし、努力により、「良い案件が集まる仕組み」までは作れる。

繰り返しになるが、大企業である以上、経営陣の方針によって、腰が重い事は多々ある。

また、「個社別にメリットを提示するなんて、勝手に自分の立場では、伝えられない」などのご指摘もあるだろう。

しかし、そのスタンスだけではだめだと思う。

上も動かすし、売り手も動かすし、仲介者も動かさないといけないのだ。

こうしたビジネスマンは現実にたくさんいる。
(やっぱりそういう方は等しく出世していく)

「頭の固い上層部がおりまして・・・」
「うちはオーナー企業のようにスピード感がなくて・・」
という担当者に、案件を持ち込もうとは思えない。

「〇〇なシナジーを出せると私は思う」
「〇〇の理念を共に実現したい」
という主体性を持っている方と一緒に仕事をしたいのだ

M&A仲介担当者も一人の人間である。

改めてになるが「良質な案件が集まる仕組み」は努力次第で実現できる

自社に買収知名度・買収体力があるかどうかは、関係ないのだ。
(現実的には大いに関係あるが、そうした事に左右されない泥臭い努力が大事だと私は考える。)

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