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人生100年時代は資格業一択である

 人生100年時代、これはポジティブと見せかけてネガティブな言葉と解釈する人が多い。長く生きられるなんてすばらしいじゃないかと直感的には思うのだが、実際はそうでもないのだ。特に、この時代に職業選択を間違えると大変なことになるだろう。今回は人生100年時代で苦境に立たされると思われる職業と、勝ち組になると思われる職業を考えていこう。

人生100年時代って本当なの?

 しばしばこの単語に対する反論として出てくるのが「100年も生きないだろ」というものだ。確かに日本人の平均寿命は85歳くらいなので、人生100年時代はオーバーにも思える。しかし、そうでもないのだ。まず平均寿命は自殺者や先天性疾患の人によって引き下げられている。実は寿命の中央値は平均値よりも上であり、日本人の半数が88歳まで生きることになる。最頻値に至っては90歳だ。これは訃報などを見ても理解できるだろう。

 またもう一つの要素も加味する必要がある。それは医学の進歩である。現在の日本はだいたい30年につき5年のペースで寿命が延びてきた。ガンをはじめとした疾患はものすごい勢いで治療されている。糖尿病ですら最近は克服できるようになってきた。こうなると、今後も寿命が伸び続けることは間違いない。現在の若者世代が老人になるころには寿命の中央値は98歳辺りになっているはずだ。人生100年時代は間違ってなどいないのである。

人生100年時代の制約

 それなら日本人の活動できる時間が長くなったのだろうか。それはイエスであり、ノーでもある。時間という希少資源の有効さを考えると、寿命が延びることは全面的に肯定されるべきだろう。ところが、実生活となると意外に負担が多いことに気が付く。

 人生100年時代の制約は二つ存在する。一つ目は職業寿命である。老人の身体能力は年々向上しているはずだが、それを社会制度として落とし込む段階には至っていない。いまだにサラリーマンの職業寿命はせいぜい65歳であり、それ以降は無職となる。寿命が延びるにつれ、これは結構しんどい。年金制度の動向を考えると、老後貯金は言うならば「65歳までにFIREしろ」ということになる。人生100年時代において、定年退職はゴールどころか、雇い止めなのだ。

 もう一つの制約は卵子である。実は日本人の寿命が延びても全く老化のペースが変わっていないのが卵子だ。これにより、出産のタイムリミットは相対的に厳しくなっている。ライフステージが後ろ倒しになっても、これだけは変えられない。教育期間やキャリア形成に長時間が必要とされる中、これは結構厳しい。職業人として一人前になったころには妊娠が難しくなるという人は沢山いるのである。

 それでは21世紀の職業事情を考えていこう。

ヤクザ・ホスト・キャバ嬢、その他アングラ系

 人生100年時代、最大の負け組となるのは彼らだ。治安が悪そうだからとか、そういうことではない。彼らの職業寿命は短すぎるのだ。

 例えばホストは大金を稼ぐ人も多いが、30代になると職業寿命を迎えてじり貧になってくる。マネジメントに回れるのは一握りであり、他は高齢フリーターになる他ない。この手のアングラ系の仕事は太く短くを是とするところがあり、人生100年時代には全く適していないのだ。

野球選手など、アスリート系

 しばしば勝ち組の代表格として挙げられるのがアスリートである。大谷翔平がメディアを賑わせないことは無い。ところが、アスリートも人生100年時代においては厳しい人生設計を強いられるだろう。

 アスリートもまた、職業寿命が30代でやってくることが多い。したがって、全く新しいキャリアを模索しなければ食っていけないだろう。

 現役時代に3000万の年棒をもらっていたアスリートが引退後に年収300万で年下の上司に怒鳴られながら下請け企業で働くのは精神的にきついことは間違いない。野球選手にならずに体育会系採用で本社に入った同級生の方が収入も地位も人間関係も全て上になってしまう。だったら働かないよいう選択肢になるだろう。

 プロ野球選手ならば金持ちだからFIREできるのではないかと思う人もいるが、ここにも問題はある。人間にとって重要なのは金よりも職なのだ。FIREできるだけの金があるが、職が無いために無職になっている元アスリートはどう見ても幸福度が低いだろうし、やけ酒などのリスクがあるだろう。水谷一平通訳の一件は、労働無き富の危険性を表しているだろう。

IT起業家など

 若き起業家がメディアで取り上げられることは多い。彼らは勝ち組だし、キラキラして見えることも多いだろう。しかし、人生100年時代、彼らもまたかなりのリスクをはらんでいるのだ。

 自営業の常だが、収入は不安定だ。若き起業家が参入できる業界は言い換えれば変化が激しいということにもなる。自分の立ち上げた会社が50年後も存続している可能性は低いだろう。したがって起業家の多くはどこかで会社を売り払って経営者の座から降りることになる。アスリートと違って職業寿命の限界こそ存在しないが、不安定であるため、アスリートに近い人生設計を求められるのだ。

エリサラ

 これは人生100年時代にそこまでの負け組にはならないが、QOLが低下すると思われる職種である。背景に定年制の存在と、激しい出世競争がある。現在のサラリーマンは50歳頃に出世が閉ざされ、60歳に役職を降り、65歳で解雇される。寿命が75歳だった時代はこれで良かった。ところが人生100年時代のエリサラは定年後のキャリア問題に悩むことになった。

 エリサラは大概が有名大学を出て、有名企業に入り、年功序列で役職もついて、身を粉にして働いてきた。ところが定年後は一転、ほとんど仕事は見つからない。介護や警備といった業界がやっとである。残念ながら、エリサラの多くは会社の外で役に立つ存在とはみなされていない。高卒でフリーターをやって来た人間と社会的な立場は同じである。アスリートほどではないが、多くは社会的転落を嘆きながらローンを払い終わった自宅に引きこもっていく。

肉体労働系

 とび職などの肉体労働系の仕事に就く人間もいる。彼らは実のところ、アスリートのような問題にはならないだろう。少子化に伴う人手不足で高齢化しても仕事をやっていける可能性が高いからだ。現場の仕事といっても、様々なスキルがあり、必ずしも単純労働として割り切ることはできないと思う。50代や60代でも普通に働いていることが多い。基本的にはエリサラに準じるのではないか。

田舎の自営業

 地方に位置している雑貨屋とか床屋のような職種である。これは人生100年時代になってもダメージを受けにくいだろう。田舎の自営業は競争が緩いので、IT企業のようにアップダウンが激しくない。細く長くが可能な業種である。実際、地方の自営業の幸福度は高いと思われる。

 ネックは地方の衰退だ。少子高齢化で存亡の危機に立たされている地方は多い。ただし、人口減少のペースより労働力人口の減少のペースの方が速いため、何とか生き残れるだろう。

士業

 弁護士といった士業は間違いなく勝ち組である。しばしば士業は無くなる仕事と言われているが、おそらくそのリスクは低いだろう。士業の供給は一定なので、機械化するメリットが存在しないのだ。

 士業の強みはなんと言っても定年が無いことにある。実は生涯年収は士業の方がエリサラよりも高いと言われている。弁護士には70代80代になっても平気で活動している人がいる。これはエリサラにはあり得ない特権だ。

 士業の強みは独立しやすいことにある。ある意味で、田舎の自営業に近い立場なのだ。

医師・薬剤師

 人生100年時代において最大の勝ち組になるだろう。少子化になってもこれらの医療系の需要が減ることは無い。いずれも定年が存在しないので、健康管理にさえ気を付ければ何も老後の不安は無い。体力が衰えて引退することには死期が近づいているので、老後を金欠の中で過ごすことは無いだろう。

 また、離職期間があっても復帰しやすいのが強みである。これは女性にとって育児がしやすいことを示す。それに日本全国に働き口があり、無理して首都圏に出る必要が無い。実家の近くで育児のヘルプを頼むことも可能である。

 筆者は幾度となく東大VS医学部の記事を書いてきたが、正直人生100年時代を念頭に置くと、東大を出て就けるほぼ全ての職業よりも医師の方が恵まれている。女性の場合は薬剤師の方が恵まれているかもしれない。結婚相手を見つけやすいことと、出産のタイミングを逃しにくいことが理由だ。

自由業

 文筆家などの自由業は何とも言えない。ただ、ある程度稼ぐことができているのであれば、勝ち組の部類になることは間違いない。人生100年時代においてはその分活動できる時間が延びるし、自由業の人間にとって働くことはポジティブな行為だから、そこまで長生きを悲観することはない。また、高齢化で昔のコンテンツを長く好む人が増えている一方で、若いクリエイターの絶対数は減少している。したがって、細く長くを実践しやすい状態にあるだろう。

 ただ、このタイプの人種のリスクは早死にしやすいことになる。鳥山明は先日68歳で亡くなった。漫画家早死に説をまたもや実証してしまったわけだ。

まとめ

 人生100年時代の勝ち組を考えると、結局は「安定」に行きつく。しばしばレールを外れることを推奨する人間がいるが、まったく賛同できない。フリーランスで一時的に収益を上げたとしても、長期的にはレールの上の人間に圧倒されるはずだ。中年以降になると悲惨な暮らしが待っているだろうし、家庭形成に重大な支障をきたすだろう。特に女性の社会進出が盛んになった現在では、男性に求められる収入も上がっており、フリーランスなどやっている場合ではないだろう。

 では最も安定している職は何かというと、肉体労働ではなく、定年制がなく、なおかつ業界単位で雇用保障がされている職種だ。要するに資格業である。その中でも医師や薬剤師が最上であることは間違いない。

 逆に不安定な仕事は最悪だ。仮に金が沢山あるとしても、職は無くなってしまう。人間にとって最も大事なのは金が沢山あることではなく、稼ぎが良いことなのだ。宝くじに当たった人間が不幸になるのも、一つはこのせいだ。低賃金でも働き口が豊富にある職種は結構勝ち組の部類かもしれない。

 エリサラの場合、会社の外と中で天と地ほど差があるというのが特徴だ。50代以降になると、エリサラにとって転職は死を意味する。会社の中で威張っている課長や部長も、会社の外に出たらただのオジサンにすぎない。彼らの会社への健診を評価してくれる人は少なく、「誰でもできる仕事」をすることになるだろう。それが悪いというわけではないが、数十年に渡るキャリア形成とは何だったのか、虚無感を感じることは間違いない。人生100年時代、エリサラは定年までひたすらに会社に「立てこもる」人生になるだろう。

 筆者が色々な人物を観察して感じた結論は、金よりも職の方が大事であるということだ。人生100年時代、現役時の貯金で逃げ切るにはあまりにも長すぎるし、こうしたライフスタイルは幸福感を生みにくい。若いころに大金を稼ぎFIREするような人生設計はあまり好ましくないだろう。やはり手に職が保証され、定年制の存在しない資格業がいかなる大金よりも最強なのである。宝くじで10億円が当たるよりも、死ぬまで年収800万がキープできる仕事の方が優れているのだ。

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