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旧後期入学者のデータで考える、東大生の学部選択

 以前、学力上位0.1%の進路選択に関する記事を書いた。このテーマはなかなか面白く、共通テストのデータなどを利用して、上位層の進学先の志向も検証することができた。

 今回は後期合格者のデータを元にこの考察の検証を行いたいと思う。

 東大に推薦が導入される前は東大にも後期入試が存在した。受験資格は前期試験に不合格であることと、センター試験の点数が(例年だと)90%を超えていることである。これらの要件をクリアすると文理合同の後期試験が受験できる。文理融合の総合科目が3つという奇妙な入試である。内容は数学Ⅲが必要であることが多く、理系が明確に有利だ。

 後期試験の面白いところは、合格すると理科三類を除く全ての科類を自由に選択できる点だ。理一に不合格になったが、後期で文一に進む、なんてことも可能だったのである。

 こうしたフリーパス券とも言える後期試験。合格者はどこの科類に進学していたのだろうか。筆者は昔の東大新聞のアンケートを発見した。2013年の後期合格者の進学先である。

 選択先は文科一類と理科一類が圧倒的に多い。やはりこの2つは人気の学部のようだ。文系は不人気と言われるが、2010年代の時点では東大文一はまだ勢力を保っており、3割以上の人が文一を選んでいる。とは言え、圧倒的多数は東大理一に進学している。

 

 東大後期は圧倒的に理系が有利なので、合格者の75%が理系である。文系の方がアホだという仮説も考えられるが、合格者の3割以上が文系に進んでいることを考えると、やはり理系有利の試験と解釈した方が妥当だろう。

 進学先の傾向は興味深い。文科一類の志望者の殆どは後期で文科一類に進んでいる。一方で文科二類の場合は文科二類よりも文科一類に進学している人間の方が多い。文科三類の場合はなんと一人しか進学していない。文科三類の志望者は数学に自信がないとか、浪人して後がないといった理由の志望者が多いのだろうか。当時の文系には明確な上下関係が存在していたものと思われる。合格最低点はそこまで変わらないとされるが、実際は採点基準が大きく違うとも言われる。文一の点を超えていたとしても、模試や苦手科目が原因でリスクを取れずに出願を下げた者も結構多いのかもしれない。

 一方で理系にはこのような傾向は見られない。なんと興味深いことに、理一志望者が理二に進学したり、理二志望者が理一に進学するケースはゼロとなっている。受験生の認識として、理一と理二に明確な上下関係は存在しない可能性が高い。ボーダー層を除けば理一と理二は純粋な興味で選ばれているのだろう。文一に進学した人間が少ないのもうなずける。それにしても後期合格者の半分が理一志望理一進学である。理一の圧倒的な厚さが見て取れる。

 極めて特殊な傾向を見せているのが理科三類である。唯一自分の志望学部を選べないため、他大学の医学部の併願も含めて複雑な選択を迫られることになる。なんと最大の進学先は文一だ。理三に行けないとなると、志望を貫くという選択肢がない。となれば、伝統的に二番目にネームバリューのあった文一に進学してしまおうということだろう。続いて多いのは理科二類だ。これは医進での東大医学部返り咲きを狙ったものだろう。理科一類に進んだ者は意外に少ない。数学への愛着が強い人間は最初から理一を受けているし、偏差値で選んでいる人間は文一に進んでいるので、理一は意外に選ばれにくいのかもしれない。もちろん偶然という可能性もある。

 かなり少数派ではあるが、理一から文二、文二から理一といった流れも存在する。経済学部は元々理系要素が強く、文二と理一は結構相性が良い。文二生のうち、学術的な関心が強い人間は文一よりも理一と天秤にかけているイメージである。これは入学後の進振りの時も健在だ。

 しかし、それ以上に目を見張るのは文一進学者の半数が前期で理系だったことだろう。文系学部の中で東大文一が特殊な立場であることの現れかもしれない。この時代はまだ東大法学部の威光が理系に負けない威力を持っていたのだ。

 文転した理系志望者が結構いるのに対し、理転した文系志望者はほとんどいない。ちょっと意外である。これは文系にとって理系の学科が敷居が高いからかもしれないし、東大文一のブランド力が高く、わざわざ理系に進学するメリットが少ないかもしれない。東大文系は偏差値的な理由で理系を諦めた人間よりも、理系科目に最初から興味がないか、大学で理系科目を勉強することに自信がない人間が多いのだろう。そもそも東大文系で数学が苦手出ないものは文理選択の段階で明確な選好見せているので、理系に未練が無いのかもしれない。

 これらのデータを踏まえると、東大文系と理三は偏差値志向の人間が多く、東大理一理二は専門志向の人間が多いという結論が出せそうだ。ただし、筆者の経験上は理一はやりたいことが曖昧な人間も多い。進路が定まっていないが、理系にはこだわりたいという人間が多数含まれると思われる。

 これらの選好は以前の記事で推定した学力上位0.1%の進路ともかぶる。この時は
東大理三 100人
京大医学部 100人
その他の医学部 150人
東大理一 350人
東大理二 50人
東大文一 200人
東大文二・文三 50人

という風に推測した。学力上位0.1%層は理三以外はほぼ確実に合格できるという点で後期合格者と似た立ち位置だ。両者を比較すると、そっくりだ。結構この推計は妥当だったのではないかと考えている。

 学力上位層の希望進路は文系:理系:医系が25:50:25であり、東大理三バイアスで上位層の医学部志望者がやや膨らんでいるという構図である。もしここに「医科歯科」という進路が存在したら、文科一類の進学者と同じくらいの人数で医科歯科への進学者が存在しただろう。というか、個人的に東大医学部の適切な入試難易度は医科歯科くらいなのではないかと思っている。


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