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ベルギー&オランダひとり旅#04.マグリット美術館

 ルネ・フランソワ・ギスラン・マグリット(René François Ghislain Magritte、1898-1967)は、ベルギー出身のシュルレアリスムの画家です。

 今回の旅行までは名前くらいしか知らなかったマグリット。

 ビートルズが設立したレーベルの「アップル・レコード」は、マグリットが描いたりんごから来ていることから、私が抱いていた印象は、青りんごをモチーフに不思議な絵を描くシュールな画家さん。

 難解なイメージしかなかったシュルレアリスムに出逢えるチャンスということで、過度な期待はせずに、でも楽しもうと臨んでやって来たマグリット美術館です。


マグリット美術館

 マグリット美術館は、ベルギー王立美術館として2009年に開館しました。初期から晩年までの約200点のコレクションを所蔵しており、マグリットの不思議な世界観を堪能できます。

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◆シュルレアリスム

 シュルレアリスムは、1924年にフランスの詩人アンドレ・ブルトンが『シュルレアリスム宣言』を発表したことから本格的に始まった芸術運動です。

 日本語で「超現実主義」と訳されるシュルレアリスムの定義は「心の純粋な自動現象であり、それにもとづいて口述、記述、その他あらゆる方法を用いつつ、思考の実際上の働きを表現しようとくわだてる。理性によって行使されるどんな統制もなく、美学上ないし道徳上のどんな気づかいからもはなれた思考の書きとり(wikipediaより)」。

 なるほど。

 ――と、勿論すんなり理解できるわけでもなく、ただ、個人的に重要だと感じたのは「美学上…(中略)…のどんな気づかいからもはなれた思考」です。

 その訳から「現実を超える」と解釈されがちのシュルレアリストですが、実際のところ、超えるというよりは、現実を見ている(と信じている)人間が持つ目に見えない、それどころか、感じることすらできない奥底の意識を表現することこそがシュルレアリスト作品の本質のような気がしました。

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◆マグリット作品の特徴

 マグリットが主に用いた手法は、フランス語で「異なった環境に置くこと」という意味のデペイズマンや「糊付け」という意味のコラージュ

 マグリットの描く題材は、パイプや帽子、りんご、木、葉、空、雲、月など至って日常的なものばかりですが、それらを本来あるべき空間や文脈から切り離したり、関係性を持たない異質なもの同士を組み合わせたりすることで非現実を生み出し、見る者に違和感や戸惑い、衝撃を与えます。

 マグリット本人曰く、彼の作品は「目に見える思考」なのだとか。

 しかしそれと同時に「意味はない」とも言うのですから、やはり理解するのは容易ではない印象を受けます。

"My painting is visible images which conceal nothing; they evoke mystery and, indeed, when one sees one of my pictures, one asks oneself this simple question, 'What does that mean?' It does not mean anything, because mystery means nothing either, it is unknowable."

「私の絵は目に見える描写であり、隠しているものなど何もない。これらの描写は神秘性を喚起し、実際に絵を観た者は『これはどういう意味なのか』という単純な問いを自身に投げかける。意味などない。神秘性にも意味はないのだから。それを知ることはできない。」

ルネ・マグリット(筆者による拙訳)

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◆コレクション:描写と題名の関係を読む

 「イメージと言葉の関係」はマグリットの特徴としてしばしば挙げられ、その試みは作品の題名からも伺えます。

「絵の題名は説明ではなく、絵は題名の図解ではない。題名と絵の関係は詩的である。つまり、この関係によって、二つの相反するものに共通する側面が表現されなければならない。(『タッシェン・ニューベーシック・アート・シリーズ ルネ・マグリット』p23)

Wikipediaより
左:Primevere, 1926
右:Pour devenir un fort soldat…Je bois le pot au feu Derbaix, 1918
Woman on Horseback, 1922
The Blood of the World, 1925
The Secret Player, 1927
《秘密の遊戯者》
The Horrendous Stopper, 1966
《ひどく恐ろしいストッパー》
Portrait of Baron Joseph van der Elst and his Daughter, 1962
Forbidden Literature, 1936
《禁断の文学》
The Return, 1940
《帰還》
The Stroke of Luck, 1945
《幸運の一撃》
Black Magic, 1945
《黒魔術》
Talkative Jewels, 1963
《おしゃべりな宝石》
The Latest Thing/ The Last Word, 1967
《最後の叫び》
Ready-Made Bouquet, 1956
《レディ・メイド(既製)の花束》
Blood Will Tell, 1948
《血は語る》
Mona Lisa, ca.1962
《モナ・リサ》
The Married Priest, 1960
《結婚した司祭》
The Blank Page, 1967
《ブランクページ》
The Fair Captive, ca.1950
《美しい捕虜》
The Fine Idea, 1963-64
《素晴らしいアイデア》
Passiflora, 1936
《トケイソウ》
The Curse, 1960
《呪い》
Untitled [The Night], ca.1963
《無題(夜)》
Good Faith, 1964-65
《誠実》

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 うーん、何だろう、この感じ・・・。

 描かれている題材はシンプルで、非常に写実的です。誰が見てもりんごはりんごだし、帽子は帽子だし、家は家だし、雲は雲です。そこに疑問はありません。

 しかし、現実にはあり得ない組み合わせと不自然な文脈、そして絵と題名との間に横たわる妙な乖離に、哲学的な挑戦を挑まれているようでもあります。

 やわらかな雲の浮かんだ穏やかな空を「呪い」と呼ぶだけで、一瞬にして印象が変わるのです。綿あめのように甘くふわふわした雲も状況によっては凶暴な雷雨へと変貌します。空の色も一定でなく、夜になれば暗闇を創り出します。空の状況によって人の生活も変化するわけで、そういうことを考えると、確かに呪われているのかも・・・。

 ――なんて。

 うーん、何だかマグリットに誘導されている気がしてきました。マグリットにそんな意図はなかったとしても、結局はありきたりな解釈しかできない自分・・・。

 絵を鑑賞して抱いたこの独特な感情とは、ひょっとしたら、自分の思考の狭さを突き付けられた心の動揺なのかもしれません。

展示を楽しんだ後はショップで本を購入するのがお決まりです。
400点の作品が詰まったこちらの本。結構お気に入りです。

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