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ばあちゃんの話#04~お化けなんて怖くないさ~
私が勝手に「ばあちゃん最強説」を唱えだしたのは、いつ頃だろうーー。今となってはもう覚えていません。
基本的に祖母はいつもどんと構え、何事にも動じない印象がありました。お化けや幽霊の類に関しても、「こっちから何もせんかったら、悪さはせんばい」とか、「えすかえすか思うけん、えすかったい(怖い怖いと思うから怖いのよ)」とか、今考えると、確かになと感じることを言う人でした。
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1.ばあちゃんと雨と深夜のお墓
祖母を最強だと思い始めたきっかけは覚えていませんが、確信した瞬間は覚えています。
ーー祖母が12歳のときのこと、ある雨の降る夜に、しかも深夜の時間帯に曾祖母から、お墓に行ってご先祖様の遺骨をすべて持ってくるように言われたそうです。
いやはや何とも意味不明で想像し難い状況ではありますが、つまりはこういうことです。
先祖代々伝わるお墓は、山の麓にありあました。遠い昔に建てられたお墓のために地盤が脆くなっていたのか、その頃にはいつ崩れてもおかしくない状態になっていたそうです。
その日は日中から、雨がしとしとと降っていました。
雨は夜になっても降り続き、さらに強くなる恐れもあったため、曾祖母はこのままではお墓が危ないと思い、遺骨だけでも安全な場所に移動しようと思ったのです。
そこで、祖母と祖母の妹(叔祖母)に行かせることにしました。
「え、子どもだけで!? 自分は行かんのかい!」と思ってしまいますが、曾祖母は曾祖母で、持ってきた遺骨を納める場所を整えなければなりません。「そんなの、帰ってからすればいいじゃん」と思うかもしれませんが、曾祖母の言うことは絶対なのです。反論は受け付けませんよ、ええ。
祖母は叔祖母と、雨の降る中、合羽を着てお墓まで行きました。叔祖母はずっと「えすか、えすか(怖い、怖い)」と繰り返していたそうです。至極当たり前な反応です。怖くないわけがない。
しかし、一方の祖母はというと、全く怖くなかったそうです。
雨が降る深い夜に、真っ暗な墓場に行き、遺骨を持って帰るというのに、怖くないって何なのでしょうね。怖いから帰ろうと訴える叔祖母を横目に、祖母は「口より手ば動かさんね」と言いながら、お墓から骨壺を取り出しては自転車の荷台に乗せるという作業を淡々とこなしていたそうです。
いやあ、12歳でこれはすごいなあ・・・。
しかも、それを普通のことだと思っているばあちゃんはすげえ。
ちなみ祖母は、怖くはなかったそうですが、雨が降っていたので肌寒くて早く帰りたかったそうです。
そっちかーーーい!
はい、ばあちゃん最強確定。
2.ばあちゃんと墓石と幽霊
そんな祖母ですが、曾祖母に霊感があったということもあってか、幽霊の存在は信じていたようです。しかし「こっちから何もせんかったら、悪さはせんばい」と言っていたことからも分かる通り、恐ろしいものとは認識していなかったようです。
祖母は、幽霊は見たことないと言っていました。
それでも、所謂「心霊体験」というものは何度か経験していたようです。
ーーある日のこと、祖母は仕事を終えて家に戻ると、身体が重たいと感じたそうです。風邪を引いたわけでもなく、ただただ重くてだるい。
その症状は数日経っても治らなかったため、病院に行って診てもらうことにしました。しかし、結果は異常なしということで、昔からお世話になっていたお寺に行って見てもらうことにしました。
すると、住職は「最近、石に座らなかったか」と訊くのです。
そこで祖母は思い出します。不調を感じ始めた日のお昼、辺りに転がっていた石が腰掛けにちょうど良さそうだったので、その石を持ってきて座り、お弁当を食べたそうです。
住職曰く、「それが昔の墓石の一部で、墓の主だった霊が、もとの場所に戻してほしいと訴えている」とのこと。
祖母はその場でお祓いをしてもらい、翌日には、石をもとにあった場所へ戻したそうです。それからというもの、身体を重たく感じることはなくなったそうです。
うん。
体調が悪くなったのは、
幽霊が悪さをしたからでなく、
ばあちゃんが墓石に座ってしまったから。
幽霊さんは、悪くないのですよ。
3.ばあちゃんと井戸と井戸の神様
似たような話は他にもあります。
祖母の家には、玄関を開けて入ったすぐ横に、井戸がありました。祖母が越してきたばかりの頃はまだ使っていたそうですが、次第に使うことはなくなり、しかし井戸をそのままにしておくのは危ないので、立ち入れないように周りを囲い、蓋をして塞ぐことにしたのです。
それからしばらくせず、祖母は突如、息苦しい症状に見舞われます。
今回も病院に行って診てもらいましたが異常は確認されず、原因も分かりません。しかし、確かに息苦しいのです。そこでまた、お寺に行って見てもらいました。
すると今度は、「井戸が塞がれたことで、井戸にいる神様が呼吸できなくなっている」とのこと。ただし、井戸を開けたままにするのも危険なので、息をするための小さな穴を開ければいいと言われます。
祖母は家に帰ると、煙突のような筒を設けて呼吸する穴を確保しました。おかげで症状はすぐに消え、それ以降は息苦しさに悩まされることもなくなりました。
めでたし、めでたし。
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この話を聞いた私は、井戸にも神様がいて、ということは、この世界には、他にもいっぱいの神様がいるのだと信じるようになりました。
所謂「八百万の神」って、まさにこういうことかしら。
あれ?
井戸に神様がいるということは、
井戸が造られる度に、新たな神様が誕生してるってことだよね。
人が何かを創ることで、
神様が生まれるなんて、
なんかとってもおもしろい。
そんなことを想像していると、
この世界は本当に愉快な世界だと、
思わざるを得ないよね。
ね、ばあちゃん。
(つづく)
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