【感想】名作すぎてもう「アンパンマン号はどうやって車検通したんだ」なんて言えない『それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ』【ネタバレ】
概要
あらすじ
いや、ちょっと名作すぎるぞ。メタルマンではしゃいでる僕がバカみたいじゃないか。「アんパンマンぅ?子供向けでしょ?」とか思ってるかもしれないけど、50分しかないからこんなもん読んでないでまず観てきて欲しい。初見の衝撃がもの凄いはず。
いくら年季が違うとは言え
僕はそこそこにヒーローものを観てきたんだけど、深いヒーロー映画ってのは作りにくいんじゃないかなと思う。と言うのも、ヒーローアクションとテーマ性の深さってのは相反するものだから。
観客は、ヒーローが敵をバッタバッタとなぎ倒す爽快さを求めるものだし、映画としてもそっちの方が易しい。無理してそれを厚くすると、中だるみと捉えられてしまう。2時間越えの、愛と憎悪の入り交じるヒーロー映画を求めるのは、物好きな子供か、現実を見てスレた大人くらいなもんだよ。
それに対して、この作品は子供向けヒーロー映画として、ある種の完成された構成で成り立ってる。キャラクター像や命とは何か、ヒーローとはなんなのかっていう重要な部分にはしっかりと核を感じるし、それでいて退屈しないスピードで進行する。無駄に思えるシーンも全くなかった。いくらコンテンツに50年のアドバンテージがあるとは言え、1時間にも満たない尺で、ここまで綺麗に話を閉じた制作陣には感服するよ。
「いやいや、子供向けのヒーローものなんて敵倒せば良いだけでしょw」とか思ってるそこの君。子供をバカにしちゃいけない。子供の人格形成に映画やテレビが与える影響は、幼いほど大きい傾向にある。僕がぼっちなのも、幼稚園時代に『ミクロの決死圏』を観たせいだと思ってる。
子供向けであっても子供騙しじゃいけないってこと。作中で、持ち主の身勝手で崖から落とされた物に命(力)が宿り町を破壊したカビダンダンと、自己犠牲を選択したドーリィって対比が描かれるんだけど、ここから、子供向けだとしても作品に真摯に向き合ったクリエイターのプライドを感じるよ。
なんのために生まれて、なにをして生きるのか
先にも言った通り、この作品にはかなりしっかりとした核があって、話の割と早い段階でテーマも示される。
そのテーマがこれ。冗談抜きでこれ。この重い言葉が50分間ストレートでパンチしてくる。僕には分かんねぇよ…… 何より感動するのは、この言葉に対してのキャラクターのアプローチの違いが凄く丁寧に描かれてるところ。
アンパンマンは誰かを守るため。それに対してドーリィは自分が楽しむためって持論を持ってて、献身と自己犠牲を否定する。それを更に真っ向から否定するカバオ初めとする学校の子供には、SNSでくだらない喧嘩をする現実世界の大人を重ねちゃうね。ロールパンナちゃんの「アンパンマンはそうなんだ。でも、私にはできない」って台詞も、キャラに芯が無いと出せない秀逸な台詞で感激した。
自己犠牲を軽いものとしていないのもめちゃくちゃ良い。命を願って手に入れたドーリィがアンパンマンの為にタヒを選んで、ただの人形に戻っちゃうシーンは普通に泣いちまったよ。自己犠牲は尊いもの、だけどそれは時に命をも代償にしてしまう。命の星って設定を使って、子供向け作品でこれをやるのはマジで凄いと思う。
インディーズのクソ映画ばっかり観てちゃダメだな
子供向けヒーローものってのは複雑にしすぎれば大きいお友達向けになっちゃうし、単純にしすぎると子供は簡単に飽きちゃう。すごく難しいジャンルだと思うけど、この作品のバランスは素晴らしい。ストーリー自体は在り来りで王道、かつ短いのに、全く薄さを感じない。
大人でも感動できる……っていうか、社会の毒に侵された大人こそ観るべき映画、かな。損はしないから観てみてね。アンパンマンのマーチの歌詞が、前より鮮明に聴こえると思うよ。