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邦楽のグローバル展開の現状、そして提案

初めまして、ルナと申します。私のnoteでは、音楽や音楽業界についての私見、音楽業界への提案、邦楽のグローバル展開に関する提案を綴っていきます。記念すべき一回目の記事となる今回は、J-POPアーティストおよびJ-Rock※バンドのグローバル展開の現状についてまとめてみました。
※本記事におけるJ-Rockは広義の意味で使用しており、J-Metalやヴィジュアル系バンドも含みます。


邦楽のグローバル展開

国内音楽市場の縮小もあり、邦楽は今までのドメスティックなマーケティング戦略を根本から転換する必要に迫られています。そんな背景もありつつ、近年我が国の音楽業界はグローバル展開に本腰を入れ始めています。

J-POPのグローバル展開

J-POPにおいては、昨年YOASOBIアイドル』がGlobal 200から米国分のデータのみを抜いたBillboard Global Excl. US chart日本語楽曲として初めて首位を獲得したり、Global 200でも高順位にランクインしたりと、目覚ましい活躍を見せました。

藤井風死ぬのがええわ』はタイアップ曲ではなく、表題曲でもないアルバムの収録曲でしたが、タイTikTokでの電撃的ヒットを契機としてアジアに波及していき、そこから欧州にも同曲が広がり、最終的に23カ国のチャートで首位を獲得するという実績を残しました。
この曲のリリースは2020年ですが、海外でのヒットを果たしたのは2022年のことです。このことからデジタル解禁を行うことでいつ何時どこでヒットするかわからない、という状況が生み出されることもわかります。

また、King GnuSPECIALZ』は、日本の楽曲から日本のデータを抜いたGlobal Japan Songs Excl. Japan chartにおいて首位を獲得。彼らは中華圏最大級の音楽アワードである『第34回金曲奨(ゴールデン・メロディー・アワード)』にスペシャルゲストとして出演。さらに、アジアツアーを成功させるなど、海外活動を精力的に行っています。

今年度はCreepy NutsBling-Bang-Bang-Born』がBillboard Global Excl. US chartで高順位にランクインし、YouTube Musicグローバルウィークリー楽曲ランキングで首位を獲得するなど、J-POPの勢いはグローバル市場でも止まることを知りません。

直近では、平野紫耀氏、神宮寺勇太氏、岸優太氏の三人で構成されたNumber_iの1st Mini Album『No.O -ring-』が香港やマレーシア、台湾のiTunesチャートで総合首位、ベトナムの同チャートで総合3位、豪州の同チャートでは総合5位、HIPHOP部門では首位にランクインしています。また、彼らのデビュー曲『GOAT』はYouTubeデイリーグローバルMVランキングで首位を獲得しています。

J-Rockのグローバル展開

J-Rockにおいて最近話題となったのが、富山県出身の西田兄弟によって結成されたロックバンド・SAHAJiのシングル『Future In The Sky』が全英フィジカルシングルチャートで8位にランクインしたことでしょう。

同バンドはThe BeatlesやOasisはじめとしたUKロックの影響を色濃く残した音楽性を持っています。ちなみに、『Future In the Sky』はOasisのプロデュースも手掛けたニック・ブライン氏がプロデューサーを務めています。日本人による本格的なUKロックバンドがヨーロッパで注目され、日本に逆輸入される形で国内リスナーにも幅広く聴かれるようになる…という現象は、かつてDYGLでも見られた現象でしょう。DYGLはSAHAJiと同じく日本人によって結成されたUKロックバンドです。DYGLは2016年に1st EPをリリースし、2018年から活動拠点をイギリスに移しました。その後、イギリスをはじめとしたヨーロッパやアメリカでツアー活動を精力的に行い、現地人から高く評価され、国内リスナーにも幅広く聴かれるようになりました。

海外フェスへの出演

今年、アメリカ最大級の音楽フェスであるCoachellaにて、88risingのステージでYOASOBIAwich新しい学校のリーダーズ (英名義:ATARASHII GAKKO!) 、Number_iが出演し、大きな話題となりました。Number_iはGOT7Jackson Wangと共にデビュー曲『GOAT』を披露したことでも話題になっていましたね。

Number_iと同じくTOBEに所属しているIMP.は、中国最大級の音楽フェスである『Chengdu Strawberry Music Festival』に出演しています。

また、これは大手海外アーティストも参加する音楽フェスというわけではありませんが、アジア最大級のオールジャパンイベントである『Japan Expo Thailand 2024』では、BALLISTIK BOYSPSHYCIC FEVERFRUITS ZIPPERといったアイドルグループだけでなく、2010年代以降のヴィジュアル系シーンを代表するバンドである0.1gの誤算や、Japanese R&Bを象徴するようなアーティストであるSIRUPも出演を果たしました。

コア層の多い音楽シーンに目を向けてみましょう。スペインで開催されるヨーロッパ最大級のロックフェスであるRESURRECTION FESTでは、かねてよりグローバル市場で活躍していたBABYMETALだけでなく、EGM (Electronic Gothic Metal) という独自のコンセプトを掲げ、国内のみならず海外のメタルシーンでも注目を浴びているJILUKAがメインステージへの出演を果たすことが発表されています。

※動画は昨年出演したPaleduskの公式動画です。

JILUKAは6月から初のワールドツアーの開催が決定しており、EU諸国やイギリス、アメリカを周ることがわかっています。

グローバル展開への提案

1.デジタル中心の産業構造への転換

これは言うまでもないことですが、音楽チャートアナライザーの方々も度々指摘しているように、グローバル展開を加速させるためには『デジタル化』が急務の課題です。日本の音楽業界では、まだデジタル化が完了していません。大手アーティストの中には、音楽配信サービスへの無理解からネガティブな見解を発信している人も見られます。さらに、日本のアイドルシーンで大きな影響力を持つSTARTO ENTERTAINMENTアップフロントプロモーションハロー!プロジェクト)は、依然としてサブスクリプションサービスやダウンロード配信に積極的ではありません。(しかし、STARTO ENTERTAINMENTに関しては、Travis Japanがデビュー曲から全てサブスクでの配信を行っているほか、最近ではSUPER EIGHTKing & Princeがサブスクを解禁しており、音楽配信サービスへの姿勢が軟化しています。)
また、「そもそもグローバル市場に進出する必要があるのか」といった意見がリスナーから多く見られますが、日本は既に超高齢化社会に突入しており、音楽市場は縮小しています。人口減少が止められない以上、将来的にも市場の縮小は避けられません。これを踏まえれば、グローバル展開は単に海外への国内文化の輸出を目的とするだけでなく、むしろ日本の音楽文化を存続させるために必要不可欠であることがわかるでしょう。

2.Stationheadの活用

本記事で取り上げたアーティストの中では、Number_iが既に大々的に取り組んでいることですが、Stationheadを活用することが今後のJ-POPおよびJ-Rockのグローバル展開において重要になると考えています。

※動画はnoteプロデューサーの徳力基彦氏による解説です。

Stationheadは個人向けのオンラインラジオサービスで、『listening Party』という機能があります。この機能では、SpotifyApple Musicの有料版と連携させることで、listening Partyに参加しているユーザーのアプリと自動的に連携し、楽曲をSpotifyとApple Musicで再生します。これを活用することで、再生数を伸ばし、チャートでの順位上昇を狙うことができます。日本ではJO1MAZZELといったボーイズグループが公式にlistening Partyを開催しており、コアファン層のチャート意識向上に寄与しています。このような取り組みをボーイズグループだけでなく、ロックバンドやソロアーティストにも広げていくことが、今後の邦楽において重要です。海外では、K-POPアイドルを除いても、テイラー・スウィフトニッキー・ミナージュビリー・アイリッシュといったアーティストが公式にlistening Partyを開催し、コアファン層へのチャート意識向上を図っています。先述したSTARTO ENTERTAINMENT所属のTravis JapanやSUPER EIGHT、King & Princeも、このサービスを活用することで、グローバルチャートでのランクインが狙いやすくなるでしょう。

3.ジャンルレスな音楽イベント

ジャンル問わず海外フェスへの日本人アーティストの出演が目立つ中、求められることは

ジャンルレスな音楽イベントの開催

でしょう。YOASOBIやNumber_iといったライト層への人気が高いJ-POPアーティストたちと、コアな音楽ファンやメジャーシーンから離れた音楽を好む層からの人気が高いJILUKAや0.1gの誤算をはじめとしたヴィジュアル系バンド及びJ-Metalバンドなどが共演する音楽イベントや音楽フェスは現状、まったくないと言っても過言ではありません。これはライト層、海外ファンダムへのフックアップという意味で大きな機会損失になっています。
音楽番組でもこれらのジャンルのアーティストたちが共演することは極めて少なく、交流もほとんどない状況です。ファン同士の交流や、ジャンルの垣根を超えた交流によるアーティストの知的好奇心の向上といった目的もありますが、グローバル市場でのマーケティング戦略を共有し、互いに良いところを模倣し合うという部分こそ、この提案の大きな目的となります。

4.メディアのチャートへの意識向上

日本メディアはJ-POPがBillboardにランクインした際によく、『グローバルチャートにランクイン』や『米Billboardにランクイン』といった表現を用います。YOASOBIの『アイドル』がBillboard Global Excl. US chartで首位を獲得した際には『米Billboardで一位』などと喧伝し、あたかも米国まで含んだGlobal 200で首位を獲得したと勘違いさせるような紛らわしい報道が横行していました。
日本を代表するヴィジュアル系バンド・DIR EN GREYのアルバム『UROBOROS』がTHE HEATSEEKERS chartで首位を獲得した際にも、『アイドル』の際と同じような報道がされていました。

このような報道の背景にあるのは、日本メディアの音楽チャートへの意識の低さでしょう。
日本メディアのそれとは対照的に、韓国メディアは、K-POP楽曲がグローバルチャートにランクインするたびに報道記事を作成し、またその後の動向も逐一正確に報道しています。韓国メディアのこのような姿勢を見習い、日本メディアが情報を正確に報道し、また逐一更新するようになれば、コアファン層のチャート意識向上に寄与するだけでなく、ライト層に日本の楽曲でもグローバルチャートにランクインできるという意識を成熟させることで、音楽文化の海外輸出を推進する国民意識の土壌が出来上がることでしょう。

5.英語詞バージョン

『アイドル』がGlobal Excl. US chartで首位を獲得できたことには、『推しの子』の存在の大きさや、そもそもの音楽的な質の高さとJ-POPのユニークさが顕著に現れた音楽性がありますが、もう一つの大きな要因が英語詞バージョンの存在です。

Global Excl. US chartで『アイドル』が首位を獲得できたことには英語詞バージョンの存在が大きく、同曲が初めて加算されたタイミングで首位を獲得しています。これは英語詞バージョンである『Idol』がグローバル基準に合わせて金曜リリースされたことも大きいでしょう。日本語詞と英語詞両方のバージョンを用意することで、チャート成績の上昇が見込めます。日本語詞を中心に活動しているアーティストには、YOASOBIのように英語詞バージョンも用意することを強く願うばかりです。

結び

さて、ここまで当ブログ初めての記事を読んでくださってありがとうございます。
YOASOBIやNumber_iといったアーティストの海外チャートでの成績は報じられることが多いのですが、JILUKAやDIR EN GREYといったメタル、ヴィジュアル系バンドのチャート成績や海外活動が報じられることは前者と比べて極めて少なくなっています。このような状況を憂慮し、J-POPと同じくらいJ-Rockシーンの海外活動も日の目を浴びるべきだと感じ、本記事を作成しました。
J-POP、J-Rock共通して、グローバル市場での存在感はますます増しています。しかし、それとは裏腹にメディアやリスナーの意識は未だドメスティックであり、このままではまた国内市場に閉じこもるところまで逆戻りしてしまうと感じています。私たちリスナー一人一人が世界での邦楽の立ち位置を正しく認識し、今後どうしていくべきかを議論し、ブラッシュアップしていくことでグローバル市場でJ-POPとJ-Rockがさらに輝くことができます。
これからも音楽への私見や音楽業界への提案、邦楽のグローバル展開についての記事を作成していこうと思っておりますので、何卒よろしくお願いします。ありがとうございました。

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