伊坂幸太郎:厳しさ9割優しさ1割でできている体育教師(生活指導)

数日前に「作家の米澤穂信が好きである」というnoteを書きました。米澤の他にも何人か好みの作家がいます。今回のnoteでテーマにしたいのは伊坂幸太郎についてです。

伊坂との出会いは『死神の精度』でした。読書好きとなった原体験は間違いなくここにあります。登場人物同士の洒脱なやりとりと巧みな伏線回収にまんまと魅せられてその後ずっとファンにさせられた男が私です(『逆ソクラテス』もすぐ買ってしまった)。

伊坂自身の風態や彼の書く文章の感じを脇に置き、作品群における物語の起承転結だけに目を向けるとどうしても浮かび上がってくるイメージがあります。厳しいけれどたまーに優しさを見せる体育教師(生活指導)です。

どういうことか。伊坂の作品に共通して言えるのは勧善懲悪や信賞必罰がはっきりしている、ということです。彼の作品にはたいていイヤーな人物が登場します。ヒールですね。ヒールの方々は皆々様、残忍です。サイコパスです。残忍なうえに賢いから手が付けられない。あの手この手で悪事が露見しないように策を凝らす。読んでいて本当に腹が立ちます。

じゃあ伊坂は、悪役にいい思いをさせてそのまま終わらせるか。そんなことは決してしません。必ず罰を与えます。しかも働いた悪事に応じて罰にも濃淡がつく。悪事を働いたら働いた分だけ地獄の苦しみを味わうようになる。それこそ"死ぬ"以上に苦しむことだってあります。「ああやっぱそうだよね、悪いことしたらそれなりにバチが当たるよね」と感じさせてくれる、ある種の爽快感をもたらしてくれる作家が伊坂幸太郎なのです。胸糞悪くて途中で読むのを止めた本がある方!大丈夫です。伊坂を信じてください。読後にはきっと溜飲が下がってる。

さて冒頭の体育教師、という話。みなさんの学校にはいませんでしたか。やたら怖い生活指導の体育教師が。いつも朝8時には校門の前に立っていて、2人乗りはもちろん怒られますし自転車の脇に傘が差してあっただけで怒られます。だって傘差し運転だめだもん。

そんな先生に説教をくらうあなた。進路調査表を白紙で出したからです。先生はもちろん怒ります。怒ってますねー。「いいか、世の中は厳しいんだよ。不条理ばかりで生きてかなきゃなんねぇんだよ。何も考えずに生きていけると思うなよ?あ?」

と4時間にわたって激詰めされた後、ふっと声をかけられる訳です。「まぁお前の気持ちが分からんでもない。今日話したことを肝に銘じて、あとはじっくり考えてくれればいいから。な。そろそろ腹減っただろなんか食べて帰ろうぜ。」

散々に厳しいことを言っておきながら、最後の最後で優しい声をかけてくる先生。緩急は抜群です。今中のスローカーブかよ。こうしたスローカーブみたいな、厳しい先生みたいな作家が伊坂幸太郎だと思うのです。

私のイメージの中で伊坂とは対照的な作家がいます。米澤穂信です。米澤の場合は、物腰が柔らかくて怒ることはないけれど生徒から舐められない英語教師です。彼がどういう作家かは以前のnoteを参照くださいませ。

ある日の米澤先生の授業です。自分の就きたい職業を英語で話すことがテーマでした。生徒は思い思いに自分の夢を語っていきます。拙い英語ですが意味は通じる。慣れない英語で自分の将来を話す状況に恥ずかしがっていた生徒たちでしたが、次第に躊躇がなくなっていきました。「ああ、自分の夢を話すっていいな。将来楽しみになってきた!」と生徒は思い始めたようです。優しく頷く先生。いい感じのいい授業です。

さて米澤先生、授業の終わりにこんな言葉を呟きます。「ま、ここにいる人の3分の1は夢を叶えることはおろか職に就くことさえできないかもしれないんですけどねー(笑)」。とこんな感じで昂揚している教室の雰囲気に冷や水をぶっかけちゃう先生、それが米澤穂信です。

伊坂も米澤も世の中の不条理について教えてくれます。指導方針には差がありますが…。クセになる人も少なくないはず。当の私もファンを抜け出せないなぁと思う日々を生きています(『逆ソクラテス』楽しみです)。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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