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タトゥーに対する偏見と差別

東京オリンピック2020の開催が決まってから、競技場や施設、交通機関などの新たな建設や開発の他、外国人が来日するにあたっての国際化を進めようとした動きや声があったと思う。
しかし、COVID-19によって1年の延期、更には入国・行動制限など、チャレンジングな状況での開催となり、異例づくしの東京五輪となった。そして日本の国際化も果たして進んだのだろうか?と疑う出来事があった。

開催した2021年の夏、当時3歳だった息子と家族3人で、新しくオープンとなった西武園ゆうえんちに向かった。家から電車を乗り継ぎ40分程だっただろうか。子供は楽しみで超ご機嫌。

日差しの強い暑い夏の日だった。入場券の列に並んでいたところ、スタッフの方が近づいてきた。
「 タトゥーのある方は入園をお断りしています。お帰りください。」
私の旦那さんは外国人。腕に少しタトゥーがあるけれど外国人では別に珍しくもない。旦那さんの見た目も、特に強面でもいかつい訳でもない。
プールに入る予定もなく、子供のために遊園地に来ただけなのに、まさか拒否とは予想もしなかった。

私は目的地に行く前、だいたいWebサイトをチェックする。この時も前日にホームページをちゃんと見た。
「私Webサイトも調べてきてますけど、そんな注意書き見ませんでした。ありますか?わかりやすい場所に注意書き掲載されてますか?」と聞いた。
「それは知りません。でもルールなので。」
(※利用規約ページに記載がある事はのちに確認。)

その会話を聞いていた、後ろに並んでいたグループの1人の男性が、
「せっかく来てるのに可哀相じゃん。何かで隠せばいいでしょ」
と割って入ってきてくれた。そのスタッフも隠せば大丈夫、と言った。
しかし羽織るものを持ちあわせていなく困っていると、その男性が
「車の中にアームカバーあるから取ってくるよ。(彼の仲間に)先行ってて。」と言って、駐車場へ向かって歩いて行った。

私達は列の途中で止められ、スタッフに「上司が今から来るから待ってて」と指示され、炎天下の中立ち尽くしていた。

男性が戻ってきて、アームカバーを差し出し
「1回しか使ってないから、いいよ使って。あげるよ。」と言ってくれた。見ず知らずの私達のためにわざわざ取りに行き、差し出してくれたその男性の優しさは今でも忘れない。
感激しすぎてしまい「すみません、どうもありがとうございます」としか言葉が出なかった。中に入ったら男性を探して改めてお礼しようと思った。後から考えると名前と電話番号くらい聞くべきだったが、その時は起きている状況に気持ちがいっぱいで余裕がなかった。

旦那はすぐにその黒いアームカバーを付けた。タトゥーは隠れた。

男性が立ち去り際に、
「隠せば大丈夫だよね?入れるよね?」とスタッフに念を押して聞いてくれた。スタッフも「隠せば大丈夫」と答えた。

しかしその後、上司と電話で話したスタッフの言葉が衝撃だった。
「確認したところ、隠しても入園ダメです。お帰りください。」

いや、衝撃どころではない。怒り、落胆、唖然、理不尽、色んな感情がこみ上げた。

「今見えてないですよね?見えなくても入れない理由は何ですか?」
と聞く。
「タトゥーがある方はダメというルールです」とスタッフ。
「見えなくても体のどこかにタトゥーがある人の入園を断るんですか?じゃあ、全員に体のどこかにタトゥーあるか聞いてます?背中に小さいのがあるって言ったら見えなくても拒否するんですか?」と私。
「いえ聞いてません。とにかくルールです。」
「見えない状態なのになぜ入園を拒否するんですか?差別ですか?」
いやもうこれ一種の差別でしょ。私はそう感じた。
「ルールなので」の一点張り。

すでにここまで1時間近く炎天下の中で足止めされたままだった。
息子は、言い合う私達を見て不安な表情。暑さで顔は真っ赤、汗びっしょり。

さらに待たされた後、スタッフに言われたのが
「上司は忙しくてここに来られません。とにかくお帰りください。」

こんな対応をされた私達は、すでに遊園地に入りたいという気持ちも失せていた。ただ、善意でアームカバーをくださった男性に返してお礼をしたいと思った。
「帰りますけど、アームカバーをくださったあの男性探して来てください。あの方の善意すら無駄になるんですよね?返してお礼を直接言いたいので。」と伝えた。

初めは「探します」と同意したが、その後
「探すのに時間かかるので、預かって後で返しておきます。お帰りください。」と言われた。

1時間以上外で足止めされ、来ると言った上司も来ない、探すといった男性も探さない。怒りというより失望感。

「探し回らなくても園内アナウンスで呼び出すことはできますよね?」とお願いした。スタッフも一度は了承し立ち去ったが、15分程して戻って来て
「うちは園内アナウンスはありません。アナウンスはしません。お帰りください。」
「え?じゃあ迷子の子供がでたらどうするんですか?」
「うちはアナウンスはありません。とにかく帰ってください。」
ここまで来るともう会話をする気にもならない。

熱中症にもなりかねない状況で計1時間45分、遊びたかっただろう子供を失望させ、納得できない言葉を並べられ、私達は帰るしかなかった。
ちなみに、西武鉄道のオフィスにも電話して問い合わせたが、答えは同じだった。

「ルールなので。」

このルールを掲げる施設は、その本質を理解しているのだろうか。昔は暴力団やヤクザなどのイメージから、入店を断るというルールがあったのはわかる。ただ、現代の国際化社会や環境にそのまま当てはめる事自体無理がある。
"コワい"イメージがある、あるいは反社的な要素がある、だから断る。人によって"タトゥーを見ると不快に感じる"という人もいるのかもしれない。個人の感じ方はそれぞれだが、タトゥーがある日本人、外国人全員に対して"不快だ"と言うのだろうか。世界にはタトゥーを入れる民族もいる。このルールだとそういう人達が来ても入園、入店を断るということか。民族の伝統を拒否する、その人の見た目が"不快""コワい"、だから拒否する、それは差別ではないのか。
そもそも、タトゥーがあればどんなに小さなタトゥーだろうが、シールだろうがNG!というルールは何のためにあるのか。1cmのハートのタトゥーが足首にあったとして、それが何の脅威になるのか?子供がシールアートみたいなものを手につけていたら拒否するのか。それがコワいイメージ・不快なのか。だと言うのであれば、鼻や眉にピアスをしていたり、強面のお兄さんをみてコワい、不快と言って、一般人に提供するサービスを拒否するのとどう違うのか?見た目の差別じゃないのか。
百歩譲って、プールや温泉など肌を露出する施設でのタトゥー拒否は目をつぶるとしよう。子供の夢の国である"ゆうえんち"で、ベビーカーを引いている子連れ家族が、どんな脅威なのだろうか。子供や家族が楽しむはずの場所で、見た目で差別されることが許されていいのか。ましてや服で隠れて見えないタトゥーに対して入園を拒否する理由が一体どこにあるのか。是非その理由を西武園ゆうえんちには答えてもらいたい。

リニューアルしたテーマは「レトロ」。中身も"レトロ"だった西武園ゆうえんち。

先進国と言われる日本、東京。この場所で、現代にそぐわないルールを強引に振りかざされたこの事実は、ショックであると同時に日本がどれだけ国際社会で遅れているか痛感した経験だった。海外の先進国では、こういう"見た目"の違いで拒否されるということは、人権に関わるのでまずありえない。

私達以外にも、きっと同じ嫌な思いをする人達がいるのではないかと思い、この経験は声を大にして言いたかった。
それから、あの時アームカバーを差し出してくれた優しい男性。スタッフは見つけて返しておくと約束したが、まあ信用していない。もしあの男性にいつか奇跡的に繋がれば、お礼したいという想い。

あなたの優しさは今も忘れません。

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