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読書?感想文: 源泉徴収のしかた

ウェブサイトやウェブアプリを作る上で重要なのは、どれだけ見てもらえるか、使ってもらえるか、だ。
そのためには様々なユーザー像やユースケースをイメージしながら、部品の配置を色々なパターンで試したり、文章に誤解が生じないか推敲したりする。
情報を過不足なく伝えるために、一度書いた文章をざっくり全部消してやり直したりもする。

誰かに何かを伝えるということは、その裏にそれだけの膨大な作業がありながらも、表面に見えているものはスマートでひっかかりがなく、さも最初から当たり前にそこに存在していたかのように自然でなければならない。

少なくとも僕はそういう信念を持って仕事をしている。

今日読んだ「源泉徴収のしかた」(国税局)は、そういう意味で本当に悲しい文章だった。

第1章の1、「源泉徴収制度の意義」には源泉徴収の解説が書いてある。
所得税は申告納税制度が建前とされていること、特定の所得については源泉徴収制度が採用されていること、復興特別所得税の概要と、それにも源泉徴収制度が採用されていることなどが書いてある。

500文字程度の文章がこんなに長く読み辛いと感じたことはそうそう無い。

まず初見で何が書いてあるのか非常にわかりづらい。

「意義」というから、制度の成り立ちとか、それを採用することの恩恵とか、そういう部分について知ることができるのかと期待して読み始めたのだが、ここで言う意義は単に「意味」という意味で使われているだけであった。

さらに、源泉徴収制度の意義と言いつつ、所得税のことだったり、復興特別所得税のことが書いてあったり、話題が散らかっている。

企業のウェブサイトでこんな文章を書こうもんならユーザーは二度と戻ってこないだろう。

以下のような修正を提案したい。

源泉徴収制度とは
源泉徴収制度とは、…というものです。
源泉徴収制度は…税などの納付に採用されています。
この制度は…という経緯で始まり、…という理由でこれらの納付に採用されています。

まず何よりも結論を先に言ってほしい。
今から何の話をします、というのがわからないとその時点で読むのが苦痛である。

今読んでいる本の中に、人に良い印象を与えるには「主音」が肝心である、という言説がある。
主音とは音楽でいうトニックのこと。
曲のキーがCなら(多くの場合)スタートはCキーだし終わりもCだ。
だから人は安心してその音楽を全編通してCキーの曲として聞くことができる。
人間の印象も同じように、良くも悪くも初めの1音で決まる、という話。
(これについては近々また読書感想文を書こうと思う)

文章もまた、初めの一音が非常に肝心だと思う。
見出しもそうだし、本文の初めの1文もそうだ。
ですます調かどうか、質素な文体なのか、婉曲や比喩の多い文章なのか。
なるべく漢字を使うのか、ひらがなを多めに使うのか。
文章の出だしは、これから私はこういう風な文章を書きますよ、という宣言に他ならない。

税金のしおりなんか事務的なものに決まっているし、読む人が10人居ればそのうちの12人くらいは読みたくないと思いながら読むものなのだから、シンプルに、質素に、飾り気なく、それでいて丁寧さと心配りを感じさせる文章であるべきだろう。
初めにスパッと結論を述べて、補足は後から。
税金に詳しくない人が読む想定だろうから単語の補足などを含めたくもなるが、そういうのは別ページに用語集を作るか、セクションを分ける。
一文は短く。
文章を読んで欲しいならその文章に読んで欲しそうな顔をさせなければならない。

そして残念なことに、このしおりの意義の章には、僕が期待したような意義は書かれていなかった。
しかし僕は納税者ではあるがそれ以前に人間であり、納税の義務は承知の上ながら、その意義やメリットを知った方が行動しやすい。
そのメリットが納税者、つまり僕自身にとってのものであればそれに越したことは無い。
しかし、メリットが国や行政側にとってのもの、例えば事務処理が楽になるとか、税金の取り漏らしが減らせるとか、そういうものであったとしても、知らないよりは知れた方が嬉しい。

マイナンバーカードのいざこざの中でも、カードの国民にとってのメリットばかりが強調されているが、あれで一番得をするのは行政側のはずだ。
行政機関における事務処理が大幅に効率化され、市役所の電気が夜遅くまでついているようなことが減るのであれば、それは大変良いことだと思う。
公務員だって人間だから、夜は早く帰って早く寝るべきだし、朝はゆっくりと朝ごはんを食べてから出勤すべきだ。
そのためにマイナンバーカードを普及させて、その上で一段上の行政サービスを提供しますよ、と言ってくれた方が僕としては協力したい気持ちになる。

税金についても似たようなものだ。
もちろんMMTとか言い始めると話が違ってくるが、少なくとも現状そうでないのなら、財源がどうとか福祉がどうとか、行政なりの正義を語ってくれれば良い。
どこかのウェブサイトに行けばきっと詳しく書いてあるだろうからこんなしおりに1から10まで書く必要はないが、少しでも使い道やその恩恵において触れておいてもらいたい。
その方が気持ちよく納税出来るというものだ。
残念ながら、たくさんは出来ないけれど。

しかし結局のところ、しおりを読んでも源泉徴収制度について自分がどのようなアクションを取るべきなのかはよくわからなかったので、明日税務署に行くことにした。
しおりを読んだ時間も、そのしおりの文句を垂れるだけのnoteを書く時間も、決して無駄ではなかったと信じたいが、無ければ無くても良い時間だった。
行政文書も手続きも、もう少し僕らに寄り添ったものになると良いなぁ。




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