ごめんな ゆかり(後編)
どーも たぬおです🌈
この👇前編を読むと(後編)はより楽しめると思います。
その後ゆかりとは中学2年、3年の時は別のクラスになる。
だが親子ゲンカしては時折3、4ヶ月に一回くらいの頻度で、ゆかり家に世話になっていたり近所だったりしたので
ゆかりはいつもそこにいて笑ってくれている
そんな感覚だった。
2年、3年と新学期も始まり別のクラスになっても
オレが転校してきた時からずっと
今まで同じように会った時
ゆかりは明るく、いつもの癒しを与える笑顔でオレに声をかけてくれていた。
中体連の大会も終わり
ほとんどの子は部活から退きぽっかりと空いた時間。
授業の内容なんて全く入ることもなく蝉の鳴く音ばかりが入ってきてプールの時間が待ち遠しい夏の暑さ。
その暑さと共に
休み時間にちらほら聞く進路の話し
イヤでも受験の夏という雰囲気が生まれ
夏休みになる。
夏場なのに水を飲まないのは当たり前
拷問のような部活の練習から開放された
久しぶりの軽い心の夏休み。
オレは友人のトオルと自転車のチェーンが、ちぎれるくらいに熊本中を駆け巡り
川や山に行って自然を感じたり、海パンもって用水路のキレイな水で泳いだり(流れが激しいため遊泳禁止されてる😵)
市内のど真ん中(地元では「街」と読んでいた)にいき、金もなかったのでひたすらアーケードを眺めながら
「あら、よかおなごばぁい(あれはイイオンナだよな)」
「そぎゃんかねーおらあっちんほうがよか(そうかなーオレはあっちのほうがいいな)」なんて言いながら
二人で女の子をウォッチングしたりして
中学生最後の夏を満喫していた。
トオルはオヤジさんが消息不明、かーちゃんが病弱の3人兄弟の長男で
おそらく生活保護か何かの援助で暮していた家庭環境だった。
そんなトオルは、ゆかりの所で新聞配達員の仕事をしていて
夏休みも配達をした後、朝から月〜金は街まである(トオルの家から10キロくらい)職安(今のハローワーク)まで行って
日払いの土方の仕事して(昔は職安の前に朝から立っていると土方業社がきて仕事を斡旋していた)家計を助け家事もこなしていた。
後日談でトオルは中学卒業して大工になり、それに伴い
新聞配達も辞め、その時ゆかりのかーちゃんから慰労金、お祝い金として30万円もらい
それを卒業の時、オレに会って嬉しそうに
「こぎゃんいっぺんに大金もろたつは初めてばぁい(こんなに一度に大金をもらったのは初めてだ)」と話した興奮と喜びのトオルの顔をふと思い出す。
トオルとは3年生の時に一緒のクラスになった。
オレが親とケンカして夜の散歩をしている時
偶然出会い話しをしているうちに仲良くなり
それ以来ケンカの後はよくトオルの家でお世話になった。
無口な男で大がらではないが鋼のような肉体を持ち
下にいる女の子二人の妹達には慕われていたが
学校では暗いほうで話しも下手で成績は悪く
友人は全くいない目立たない存在だった。
大工を志し就職を頼んだ親方から計算と図形に強くなることと文字だけは読めるようにしておけと言われたらしく
トオルは勉強を教えてくれとオレに頼み
オレは喜んで数学と国語を教えていた。
トオルは賢くどんどん吸収していって
その時にトオルが言った。
「勉強もけっこうおもしろかね、もっとはよたぬおから教わっとけばよかったばぁい(勉強もけっこう面白いんだな、もっとはやくたぬおから教わってればよかったよ)」
と言われたのを今でも覚えている。
素朴で芯の強さがあり優しさと素直さがあるトオル
そんなトオルが密かに恋心を抱いていたのが
「ゆかり」だった。
「たぬおは、ゆかりさんとなかよかもんなーうらやましかねー(たぬおは、ゆかりさんと仲良しでうらやましいなー)」とトオルはオレによく言っていた。
オレはトオルもゆかりも大好きだった。
こんないいヤツがいるんだなーと二人に対して
心の底から思っていたし、こんな二人が付き合ったら最高だと思っていた。
夏休みの終わり頃
オレとトオルでゆかりを誘って夏祭りに行こうと話しをしていた。
ゆかりに仲良しのミキちゃん(たぬお好み😍)を誘って行こうと提案したらOKしてくれて
四人で夏祭りに行くことになった。
夏祭り当日
オレはトオルを誘い、ゆかりはミキちゃんを誘い
18時くらいに祭り会場で待ち合わせることにした。
待ち合わせに向かう途中
トオルにオレの手持ちが500円だと告げると
トオルは「いつも勉強や妹の面倒みてもらっとるけん(もらってるから)」と1000円をくれて
その後すぐに「1500円じゃカッコつかんけん(かっこがつかないから)」と言って
もう1000円くれた。
いつもは天の邪鬼で人の好意を受け取るのが苦手なオレだったが
その時はナゼか素直にトオルの好意に甘えられた。
2000円で、二度と忘れることない感動を与えられるトオルの人としての素晴らしさを書きながら今、感じている。
待ち合わせ場所で待ってると
ゆかりとミキちゃんが浴衣で登場するのが
遠めからでもわかった。
トオルとオレは互い目を合わせ
気持ちわるいほど、ニヤついていた。
祭りは最高に楽しかった。
ミキちゃんとトオルは
それほど口数は多く無いので自然と夫婦漫才のように、ゆかりとオレが場を盛り上げる感じになり
四人みんな祭りの間、笑顔でいて、楽しんでることをオレは感じていた。
祭りの後の方になるとオレはミキちゃんに積極的に話しかけまくり
ミキちゃんの
髪をアップした浴衣姿から漂うほのかな香り
その艶やかな姿、横で笑う笑顔に吸い込まれとろけそうになり
「抱きしめたい」
その衝動に幾度となく負けそうになりながらも
ぐっと立ち止まり
頭の中はミキちゃん祭りで
その間
ゆかりとトオルのことなんて全く頭に無かった。
祭りも終わり四人で仲良く帰っていき
最初にトオルが別れ
ゆかり、オレ、ミキちゃん、の三人の並びで女の子二人に挟まれながら歩く格好になり
話しはトオルの話題になった。
「あんなにしゃべるトオルくん初めて見た」
ゆかりが笑顔で話す。
「こぎゃん楽しかこっは初めてばぁい、ありがとない、ありがとないって連呼しとったねトオル(こんなに楽しいかったことは初めてだよ、ありがとうな、ありがとうなって連呼してたな)」
夜空を見上げながら話すオレ
「トオルくんがあぎゃん働いとるとも全然知らんかった(トオルくんがあんなに働いてるのも全然知らなかった)」
トオルと今日初めてしゃべったミキちゃんも笑顔で話す
これはトオルの素晴らしさスゴさを
ゆかりにアピールするチャンスだと思い
「トオルは強くて優しかヤツばぁい、勉強もやっとらんだけで成績悪かっただけで本なこつまっご頭ええけん覚えが早かもん…(勉強もやってないたけで本当はもの凄く頭がイイ覚えが早い…)」
と妹二人に好かれてる、料理が得意で煮物がうまい、手先が器用で裁縫もいけるなど
トオルの良いところトオルの素晴らしさを
汗が吹き出そうな勢いで全力で伝えた。
その後はオレは
めろめろになってたミキちゃんとずーっと話しをしていて、ゆかりに背を向けたままにして意識にすら無かったかもしれない。
ゆかりの家の前になり
オレは近所だったがミキちゃんを一人で帰らすのはマズイので家まで送るという口実で
「ミキちゃんと二人きりで話す権」Get!!に
うかれて、またまたお花畑状態だった。
ゆかりと別れた直ぐ
ミキちゃんとオレ二人で帰る背中から
ゆかりの声がした
「たぬお!たぬお!」
ゆかりが手招きする
「なんやゆかり、はぁーミキちゃんちょっと待っとって(なんだゆかり ちょっと待ってて)」
これからお楽しみの時間なのにと
出鼻をくじかれた感じで、ため息一つして
怪訝そうにゆかりの所へ小走りした。
「なんやゆかり、たぬお!たぬお!って気軽に話しかけんなよ」
ゆかりに邪魔され気がして
「はよせーよ」みたいに少し強めに言ったかもしれない。
「わたしも一緒にミキ送っていこうかな」
ゆかりは耳元に近づき小声で言った。
「もーえーけんぬしゃクソして寝ろ(もーいーからオマエは用を足して寝ろ)」
ミキちゃんとの二人きりを邪魔されたくない思いが先走り、ゆかりの正面からあしらうよに目線すら合わせずに言った。
ゆかりが、しばらく無言になり
「…わかった、おやすみ」
と笑顔なく言った。
「んじゃまたな、おやすみ」
ゆかりの表情や声のトーンすら意識することなく軽く返事して、帰り道と同じようにまたゆかりを背にして、オレはミキちゃんの方へ向かった。
「たぬおくん、ゆかりなんて(ゆかり何か言ったのorあったの)」
ミキちゃんが、ゆかりを少し気にかけていた。
「なんじゃなかミキちゃん一緒に送ろうかてゆかりが言うたばってん(何でもないよ一緒に送ろうかと言ってたけど)」
「はよ寝ろって言うてきただけたい(はやく寝ろって言ってきただけ)」
「ふーんそぎゃんね(ふーんそうなんだ)」
と言いながら振り返り見送るゆかりにミキちゃんは笑顔で手を振り
ハッと気づかされたようにオレも振り返り手を振り
ゆかりも笑顔で手を振っていた。
ゆかりは笑顔だったかもしれないが、祭を楽しんでたさっきの笑顔とはまた違った笑顔だったかもしれない。
オレにはゆかりのことなど、その時は意識にはなかった。
無事ミキちゃんを家まで送り届け別れた後
いつものように星空をながめながら
一人歩いていた。
その時ふと意識に割り込んでくるかのように
ゆかりとの別れ際に放った
「なんやゆかり、たぬお!たぬお!って気軽に話しかけんなよ」
という言葉がアタマを過ぎった。
ふと冷静になり今日の祭りを振り返ると
自分が楽しむこと、ミキちゃんに楽しんでもらい話して仲良くなること、トオルに楽しんでもらいトオルの素晴らしさを、ゆかりに伝える。
そこに「ゆかりに楽しんでもらう」は
一切入っていなかった。
いつも
自分自身は前に出ずに
優しく包み込むように見守り、心から人の幸せを願える
ゆかり
そんなゆかりの大きな優しさに甘え
ゆかりを置いてけぼりにして
ずっーと見守って優しく受けとめてくれていたこと
それに報いることなどすら思わない愚かなオレ
何よりゆかり自身の素直な気持ちに
一切気持ちを傾けることも無かったオレ
こんな時でも
オレ、オレ、オレ
ゆかりの本当の素直な気持ちを知りたい
しかし
ナゼか勝手にオレが作り上げた大きな壁が
ゆかりに話しかけ、ゆかりの素直な想いを知ることを邪魔しようとする。
「ごめんな ゆかり」
こんな簡単な一言が言えない
簡単なのか
難しくしてるのか
静かな夜道に宇宙の晒し者になった。
知らぬ間に家に着く
テレビを観ている家族をよそに
畳の上に寝転び
なんだか迫ってきそうな低い天井を見ながら
様々な思いが過り
気持ちを整理することを遮るかのように
交錯していた。
その後
ゆかりは廊下ですれ違っても会釈をしたりしなかったりで話しかけてくることもなく
放課後
目すら合わずに赤の他人のごとくスッと
ただの同級生になってしまったオレの横を通り過ぎていった。
卒業式、ゆかりに
感謝の気持ちと謝罪をしようと
ゆかりのクラスに行くが何かが邪魔をして
一歩が踏み出せず
しばらくゆかりを見つめながら
「卒業おめでとう、第一志望合格おめでとう
ありがとう、さよなら」
と心の中でつぶやきながら
ゆかりのクラスを後にした。
卒業後、ゆかりとオレは違う学校に進学し
ゆかりは電車で
オレは原チャリかチャリで通学するため
朝から会うこともなく時は過ぎていった。
高校3年の夏
またいつものようにケンカをして
夜空の散歩をするオレ
すると
自販機の光に照らされ下の取出し口から
飲みものを取ろうとした女の子
ゆかりだった
「ゆ‥ゆかり」
オレからゆかりに話しかけるなんて珍しかった。
「えーなにえ?!たぬお?」
ゆかりは少し驚いたが、こっちを向き安堵の表情を見せた。
「久しぶり」
どんな顔してオレは話しかけたのだろう。
「久しぶり、元気しとった」
ゆかりは昔と変わらない笑顔で話す。
「まあな、ぬしゃどぎゃんや(アナタも元気だった)」
オレだけぎこちない感じで少し大人っぽく見えたゆかりに緊張してたのかもしれない。
「うん」
昔と変わらずその笑顔に癒される。
しばらく
ゆかりと高校生活や大学受験、将来の話しなどして話しは尽きる事なく
中学3年の夏
あの祭りの日以来、何でお互いに話しかけることが無かったのか
その話題には、お互いナゼか触れなかった。
しばらくすると
ゆかりを探しにきたゆかりのオヤジさんが来て
「たぬお楽しかった。またね」
ゆかりの表情は少し寂し気に見えた。
「じゃあなゆかり、また」
まだ話したい、そんな気持ちもあったが
家に帰る宛もなく時間はあったが、サヨナラを告げた。
「ごめんな ゆかり」
この一言がまた言えず
この後から今に至るまでゆかりに会うことは
二度と無かった。
しばらく歩いていると
あの夏の後に
ゆかりもオレもお互いにお互いに対する態度が少しだけ変わったものの
周囲のゆかりのオヤジさん、かーちゃん、同級生のミキちゃんなどは
いつもと変わらずにオレに接してくれていた。
ひょっとして
あの時のゆかりの想いや気持ちは誰にも言わずに
ずっとその胸に秘めていたのだろうか
それはオレに対する気遣いだったのだろうか
またゆかりの大きな優しさに包まれ
オレは批難されることなく救われていたのだろうか
ゆかりのことを振り返り思い出す度
ゆかりの大きな優しさに触れられる。
言えなかった想いや言葉は誰しもあると思う。
そして大きな優しさや愛に包まれ
言えなかった言葉に乗せた後悔や思いは
少しづつ浄化されていく
ゆかりに愛と許しと思いやりを
その出会いと別れを通じて体感させてもらった。
ゆかりに
心からの幸せがあることを願い
感謝の気持ちに乗せて話を終わりたいと思う。
愛をありがとう
最後までお付き合いいただき
ありがとうございます
アナタの人生に感動あれ
アナタの日常に 潤いを✨