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美術の未来

ニュース記事「文化財の保存と公開、そのジレンマをデジタルで解決した『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』展の凄さ」を読みました。


 美術館や博物館には、文化財や芸術品、民俗や科学などといったものの資料を収集・保管し、調査研究を行い、それを展示・公開して、教育普及するという役割があります。放っておけば在野のまま埋もれてしまったり、その価値を理解されないまま管理されることなく朽ちてしまうものを、後世に残し、広く人民に知らしめることが使命だと言えるでしょう。

 しかしこれは困難を伴います。保管するということと、公開するということとの性質があまりにもそぐわないのです。
 保管する、とは、劣化や損傷を抑えて保つために管理する、ということです。一番確実な方法は、温度と湿度を適切に管理して、光が当たらない、化学変化もなるべく起きない場所に入れることであり、これはすなわち「人の目に触れない」ということを意味します。
 かたや公開するとは、「人の目に触れる」ということです。人の目に触れさせるためには保管場所から移動させなければならず、それは「人の出入りによって温湿度管理もままならず」、「ある程度の照明を当てなければならず」、「鑑賞者の呼気や唾液の飛沫、接触による汚損や破損の恐れがある」所へ、す「破損や盗難の危険を冒して」持っていくことにほかなりません。保管と公開の両立が難しいのは、おわかりいただけると思います。これが、美術館・博物館の抱え続けているジレンマです。

 展示品を保全するために、既存の美術館や博物館では、簡易な柵を設けたり、ロープを張ったりして展示品への接近を阻んでいたり、アクリルケースで囲ってしまったり、もっと強固な例だと、壁一面をガラスで覆ってその中で展示をしたりするなどしています。しかしこれだと、展示品から遠くて細部が見づらかったり、アクリルやガラスに光が反射して見にくかったりするわけです。また、人気のある展示品ですと、その展示品の前が黒山の人だかりになることも珍しくありません。展示の仕方によっては、私のように背の低い者は、観ることすらできなくなってしまうのです。

 その点、今回の展覧会の試みは、絵画作品をデジタルリマスターしてデータ化することによって、それを投影する設備さえあれば、劣化や破損・汚損を気にすることなく、好きなだけ照明を当てて鑑賞することができ、しかも拡大・縮小は思いのまま、さらに貸し出し期間は問わない、という夢のような展示を可能にするものです。これが普及すれば、学校や病院、公民館や福祉施設、デパートなどといった、美術館以外の場所でも気軽に美術鑑賞ができるようになるでしょう。

 もちろん、肉筆画を自分の目で間近にする、という経験はなにものにも換えがたいことに変わりはありません。その価値は失われることはないでしょう。リマスターデータ投影展示の価値は全く別のところ──美術館や博物館へ多くの人が抱いている「垣根が高い」というイメージを払拭すること、ひいては芸術、歴史、自然、科学といったものが持つ(と思われている)近寄り難く難解なイメージを取り払うこと、そういったところにあるのです。これらのものが身近になり、手軽にアクセスできるようになれば、国民の素養は富むことでしょう。素養の高い国民性は学習意欲を生み、各分野での発展をおおいにうながすことでしょう。

 そのためには、こういった美術館や博物館の取り組みは必要不可欠であり、今後ますます創意工夫が求められることになると思います。それには産・官・民・学、それぞれの連携が欠かせません。お互いに敬意を払いつつ、未来へつなげることを、これからも期待したいと思います!



 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 それでは、ごきげんよう。


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