「あの人たちは一体誰?」 時代を超えた若者たちの草野球【八月の御所グラウンド】万城目学著
万城目学さんの存在を、直木賞候補作に出てから
初めて知りました。
受賞インタビューを聞いて
「ボールを投げるとスライダーになる」という言葉が印象的でした。
「なるほど、そういうことか」と納得しました。
京都で大学生活を送っている朽木が
草野球の試合に出ることから始まります。
友人の多聞からお願いされて、
ある草野球の試合に参加することに。
理系学部に在籍している多聞。
所属してる研究室の指導教官である三福教授が
草野球チームを率いています。
時期は8月。大学のほとんどの人は
帰省していて京都に残っていません。
人を集めるのに苦労をします。
なのに、なぜか不思議と
9人揃って試合ができました。
※ネタバレあり。
・毎回違うメンバー
一番最初の試合には、多聞の職場の人が来ました。
彼はクラブで働いています。
しかし、次の試合では、仕事で飲み過ぎたため、
参加できなくなります。
そしたら、同じ学部ゼミのシャオさんが来ます。
彼女は中国人留学生です。
不思議なことに、彼女が友人を連れてきたため、
9人揃って試合ができました。
毎回、こんなことが起こりました。
・沢村栄治に似た人!?
皆さんは沢村賞を知っているでしょうか。
野球が好きな人は知っているかもしれません。
先発投手で活躍した人がもらえる賞です。
一番最近では、メジャーリーグに行った
元オリックスの山本由伸選手が受賞しました。
私が応援しているソフトバンクホークスでは、
斉藤和巳さん、杉内俊哉さん、摂津正さんが受賞をしています。
彼らは現役時代、ピッチャーとして素晴らしい実績を残しています。
この程度の知識しか知りませんでした。
沢村栄治は3回、軍に応召されました。
1944年に、27歳で戦死しました。
なぜ彼の話が出てくるか。
それは中国人留学生のシャオさんが
沢村栄治の白黒写真からカラー化した写真を
朽木に見せます。
試合に出ていた人にそっくりな人がいました。
「あの人たちは一体誰?」と謎が出てきました。
「まさか戦死した伝説の投手と一緒に野球をしていたのか」と信じられない事態になりました。
・「みんな、野球がやりたかったんだ」
朽木はある日、御所ラウンド行きました。
戦時中、この場所は出陣学徒壮行式の会場でもありました。
戦死したはずの人と一緒に試合に出たという話が出てきてから「みんな野球がやりたかったんだ」と気づきました。
そしてこの次の日は送り火、
そもそもこの日が終戦記念日だったことにも
後から気づきました。
・感想
これは多聞のセリフです。
私は胸の奥に重石が乗ったような感覚になりました。
多聞は三福教授から聞いた不思議の話を
朽木に話します。
2人とも、戦死したはずの人が
令和の時代に一緒に野球をやっているかもしれないとわかっても、不気味がったりしません。
むしろ「みんな野球がやりたかったんだな」と共感するくらいです。
主人公の朽木や多聞の優しさを感じました。
沢村賞の由来になった沢村栄治さんが
3度も軍に召集され、
戦死している事実に驚かされました。
もし戦争のない時代にプロ野球生活を送っていたら、もっと長く現役生活を送れたかもしれないと思うと言葉が出ませんでした。
奇しくも、この本を読んだ直後に、
西日本新聞の読者投書欄を読みました。
この日は戦争体験が載ってる日でした。
ほとんどは、実体験が書かれていて、
投稿者は90才過ぎている人が多かったです。
どの話も悲惨な話ばかりで「こんなことが二度と起きてほしくない」と思いました。
彼らは、野球がやりたくて現代に復活したのかと思いました。
「死人が復活して野球の試合をする」と聞くと、
ホラーのような感じがします。
朽木や多聞たちが、気味悪がることもなく、
「一緒に野球をしたかったんだろうなぁ」と言っているのに暖かさを感じました。
「草野球の話で直木賞?」と受賞した時は感じました。
読み終わって「なるほど、そういうことか」と納得しました。
以上、ちえでした。
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